子ども時代の虐待やトラウマ体験が脳を変形させ、病をもたらす
こんにちは、リーオです。
この記事は、「子ども時代の虐待やトラウマ体験が脳を変形させ、病をもたらす】という内容について書かれています。
子育てや教育に携わる方、小児期に受けたトラウマで長年苦しまれている方に参考にしていただきたい内容になっていますので、ご参照ください。
しつけという名のマルトリートメントの末路
脳で炎症が起きることが明らかに
脳で起こる縮小や肥大化
ACE(逆境的小児期体験)
大人になってからでも回復できる
しつけという名のマルトリートメントの末路
親からの虐待がトラウマの原因になることは一般的にも知られていることですが、たとえ暴力・性的な被害でなかったとしても、子どもの発達へのマイナスの影響は大きいと考えられています。
たとえ虐待とまではいかなくても、子どもに対する暴言や否定的関わり、無関心、親の気分的なイライラによって罵倒されるなどといった、子どもに対する不適切な関わり方を総じてマルトリートメント呼びます。
親としてはしつけの範疇で厳しく接しているつもりでも、その関わりが今後のその子の人生に影を落とし、取り返しのつかない事態を招いてしまうこともあります。
なぜなら、親や大人からのマルトリートメントを受け続ける子どもの脳は変形し、萎縮したり肥大化してしまうことが明らかになっているからです。
親としてはぞっとするような話ですよね。
小児期のトラウマのむずかしさ
トラウマ治療においてこれまでは、まずクライアントを苦しめている環境要因を整理・改善し、
心理的要因(現在、苦しいと感じている認知)を再プログラムし直して、物事をとらえる視点を変えていくことで、トラウマの苦しみから解放されていくという学説が心理の世界では主流でした。
ですが、トラウマにおいて生物学的要因も重要な要素だということが分かってきたんですね。
マルトリートメントにより、脳の変形や機能的問題が生じ、トラウマによる苦しみを助長してしまいます。
つまり、心や環境だけをケアするのでなく、子ども期に変形し、発達を阻害されてしまった脳のケアもしっかり行わなければならないということですね。
脳に炎症が起きてしまうことが明らかに
医学的にはこれまで、”脳には免疫特権がある”と考えられていたそうです。
いうならば、外的な要因や感染症により脳の炎症は起こりうるが、免疫系の不調により神経炎症が起こることはないと考えられていたんですね。
たしかに脳って特殊な聖域て感じがしますよね。
ですが、不適切な関わりを受け続けたり、トラウマ的な体験、慢性的なストレスを受け続けたりすることで脳が炎症を起こしてしまうそうです。
そのような状態になることで、困ったことが起き始めます。
脳の掃除屋さん”ミクログリア”による炎症反応
脳細胞のミクログリアは本来、脳の発達や増殖に欠かせないもので、不要なニューロン細胞を除去する働きもする重要な存在です。
ですが、慢性的なストレスを浴び続けることで、正常な働き以外に、脳内に炎症物質を作りだすこともしてしまいます。
その炎症反応により、脳の機能を変化させてしまうんですね。
また予測できないようなストレスが続くことで、正常な働きをする脳のニューロン細胞まで除去、貪食しはじめるといいます。
その結果、不安障害・統合失調症やアルツハイマー病の原因にもなるといわれています。
また海馬のニューロンの生成を阻害することで、うつ病にもつながるそうです。
脳で起こる縮小や肥大化
マルトリートメントを受け続けることで、脳はその状況に適応しようとし、自ら変形していきます。
これらを知っていたら、子育てや教育でも気をつけないとなと思いますね。
・前頭前野 (萎縮)
体罰により萎縮する。
人間特有の脳で、意思決定や自己決定を行う。
海馬や偏桃体のコントロールし、衝動性を抑える。
・視覚野 (萎縮)
性的虐待・DV目撃で萎縮する。
映像化での記憶、ワーキングメモリー(短期記憶)をつかさどる。
右利きの人は、細部に意識が行かないように左脳が萎縮する。
・海馬 (萎縮)
ストレスホルモン”コルチゾール”を過度に浴びるため、萎縮する。
特に3~5歳時の影響が大きい。
学習能力や記憶力に悪い影響がある可能性が考えられる。
・聴覚野 (肥大)
言語に関する脳であり、暴言や否定的な関わりにより肥大する。
特に母親からの言葉がけがダメージが大きいとされる。
2歳以降、脳内の伸びすぎたシナプスは神経の伝達を効率化するために、ミクログリアにより刈り込みが行われ、適切な容量に保たれます。
マルトリートメントによりその適切な刈り込みが行われないために、脳に余計な負担が増え、結果、心因性難聴になったり、情緒不安、他者との関りがもてない状態になってしまいます。
ACE(逆境的小児期体験)
ACE(逆境的小児期体験)について、詳しくは別の記事で紹介したいと思いますが、小児期における、トラウマや虐待、ネグレクト、死別、親族の逮捕など・・・、
慢性的に続くストレス体験や深く傷つける体験を受けた子どもが成人になった際に、発病のリスクが、そうでない人に比べて何倍も高くなるという研究データが明らかになり、今も世界で研究が進められています。
それがACE研究というものです。
ACE体験によって傷つけられた脳はこれまで書いてきたように、萎縮したり肥大したりします。
そして、短期的な症状というよりは、時間をかけて、まるで時限爆弾をセットしたかのように成人になり、あるきっかけを引き金にしてさまざまな身体症状を引き起こします。
例えば、ACE体験調査(逆境的体験の該当項目を調べるアンケート)で、4項目に該当する人は、該当なしの人に比べて、
発がん率が2倍、うつは4・6倍になるというデータがあります。
また、7項目以上に該当する場合、心臓病リスクが3・6倍に上がるそうです。
その他、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、片頭痛、抑うつ障害などの慢性的な症状の発病率が高くなるという研究データが出ています。
そして、軽度な逆境体験(親の無関心、両親の喧嘩の目撃、継続的な侮辱や否定的な関わり)でも、また、親以外の大人、教師による関わりによっても、心疾患、肺疾患、糖尿病、頭痛などのリスクが上がる可能性が解明されてきているようです。
脳にダメージを受けるということは、これほど深刻な症状を将来においてツケを払わされるということなんですね。
大人になってからでも回復は可能
辛く厳しい体験を強いられてきた子ども時代。
そしてその代償を自らの身体をもって払わされる成人期。
幼いころにそのような経験がなければ、あのような環境で育たなければ、今の人生はもっと違ったものになっていたはず。
そう思わずにはいられないのが、苦しんでいる当事者の思いではないでしょうか。
マルトリートメントにより、脳の変形や損傷が起こるために、あらゆる身体の不調が生まれることが分かったところで、その状態のまま生き続けるしかないのであれば苦しみは癒えません。
幸い、脳にダメージを受けたとしても、脳と身体を修復する方法は世界で研究され、解明されてきています。
脳へのダメージは深刻だが、回復できるということです。
適切なトラウマカウンセリングも一役を担っています。
ACEについて書かれた著書、「小児期トラウマがもたらす病」には、実際にACE体験により身体症状で苦しんでこられた方々が、さまざまな方法で乗り越えてきた内容について紹介されています。
例えば、心の状態を書き出すライティング法や瞑想を行うマインドフルネス、専門家からセラピーやソマティックエクスペリエンス(身体志向)のセッションを受ける、その他、イメージング法や催眠療法などについても紹介されています。
ただここで、どうか気をつけていただきたいのは、例えば、
瞑想、マインドフルネスが脳の回復、再構築に有効な手立てだと書かれていても、本の内容をうのみにして一気にチャレンジしないでくださいね。
確実に逆効果になってしまいますので・・。
瞑想はたしかに良いですし、私もやっていますからおすすめに違いはありません。
だけども!
本にまとめるとなると、どうしても紙面の制限があるので、ケアに至るまでの経緯が事細かくまでは書けないんですよね。
解釈によっては、瞑想を始めたら一気に改善、解放された!これはすごい!!と、クライアントもカウンセラーもなりがちですが、
これらを受けられるようになるまでも、自身の変化に耐えられるようになるまでも、
いろいろな段階を踏んでいるはずですし、それなりの時間もかかっているはずです。
回復できるいろいろな方法は解明されていますが、そこに至るまでのプロセスを慎重に、丁寧に行わなければ全て台無しになってしまいます。
ですので、希望を持ちながら、ゆっくり、じっくりケアを進めていかれることを心から願っています。
必ず良くなりますから。
みなさまの心が晴れますように。
参考文献
小児期トラウマがもたらす病 -ドナ・ジャクソン・ナカザワ-
親の脳を癒せば子どもの脳は変わる
子どもの脳を傷つける親たち -友田明美-
ミクログリアによる脳の恒常性維持とその破綻としての脳疾患
-安藤めぐみ、小山隆太-