さまざまな障がいがあっても楽しめる映画館

育休中の友人から「赤ちゃん連れで楽しめる映画館に行ってきた」と聞かされた。シネコンで開催されている小さな子連れ向けの上映会に参加したのかと思ったが違うらしい。

子連れだけでなく、目の見えない人、耳が聞こえない人など、通常の劇場には行きづらい人たちが映画を楽しめる“ユニバーサルシアター”に行ってきたという。

駅までお迎えに行くことも

ユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」は東京・北区田端にある15席ほどの小さな映画館。

上映するすべての作品は全席に搭載されたイヤホンジャックから場面解説の音声ガイドを聴くことができ、邦画にも日本語字幕がつく。赤ちゃんが泣いても気にしなくていい完全防音の親子鑑賞室や、車椅子スペースを完備。館内はバリアフリーが徹底されている。

親子鑑賞室なら赤ちゃんが泣いても気にならない

リクエストがあれば駅からの誘導も対応するし、予約のお客さんが時間に間に合わない場合は上映開始を遅らせることもある。他に類をみない映画館だ。

「まだまだ多様なニーズがあると思うので、新しいお客さんが来たらどう対応するか考えていきたい」と代表の平塚千穂子さんは話す。

すぐに出かけられる場を

平塚さんはボランティア団体の「バリアフリー映画鑑賞推進団体 シティ・ライツ」を2001年に立ち上げ、目の不自由な人たちと映画を楽しむ場づくりを手掛けてきた。映画の視覚情報を言葉で補う音声ガイドを作ったり、公開されている映画を障害のある人たちと一緒に一般の劇場へ観に行く「シアター同行鑑賞会」を開催したり。

事前に作品の資料が入手しづらい新作映画の鑑賞会では台本を読むのではなく、映写室からFMラジオの電波を使ってライブ実況しイヤホンで聴いてもらうように。目の不自由な人たちにとってお手上げ状態だった外国映画も鑑賞できるようになったことで、一般の劇場が親身に相談に乗ってくれるようになってきた。

チュプキの全席に搭載されたイヤホンジャックには左右の音のボリュームを調節できるレバーが付いている。聞こえ具合によって片方ずつ音量を調整できる

とはいえ一般の劇場でバリアフリーの鑑賞会が行われることは少ない。開催日を逃すと、次の機会まで期間があくことも多い。「バリアフリーの映画館に行きたい人が『今日観たい』と思ったときにすぐ出かけられる場を作りたかった」(平塚さん)。

バリアフリーにとどまらない

しかし映画館をつくるのは容易ではなかった。まず、物件の問題。利便性を考え、駅の近くで劇場に適した場所を探したが、消防法や防音の問題など、条件に見合った場所を見つけるのには苦労した。

やっと理想と思える物件に出合ったが、次に資金面の問題が立ちはだかった。賃料に保証金、工事や設備費……。見積もると、必要な資金は2000万円弱。簡単に踏み出せる計画ではなかった。

しかし周囲からの応援に背中を押されSNSやクラウドファンディングを通じて募金を呼びかけると、予想外の速さで目標金額の1500万円にたどり着き、16年に日本初のバリアフリー映画館としてオープンすることができた。

平塚さんは、ユニバーサルデザインであることのみならず、その一歩先をゆく“映画館としての質”にもこだわった。

平塚さんの経験によれば、視覚障がい者にとっては、映画を鑑賞するうえで音がとても重要。音のいい映画館にしたいと考え、国内外で活躍する音響監督に音響設計に携わってもらった。

天井にはスピーカーを配置し360度音に包まれるような環境に。こうすれば、優しく繊細な音もきれいに聴こえる。

映画の音を振動で感じられる「抱っこスピーカー」

最近では、今、ブームになっている“爆音上映”にも挑戦。低音を効かせた大音量での上映は視覚障がい者だけでなく“爆音上映”好きのマニアックなお客さんにも「他の劇場に負けていない」と好評だ。

目をつむれば別の世界が見える

今は映画の上映だけでなく、音声ガイドのナレーションや台本制作の講習会の開催にも取り組む。音声ガイドに有名な声優を起用するなど、よりこの劇場を知ってもらうためのチャレンジも日々行う。

「視覚障がい者の映画鑑賞は、想像したり推理したりする分、作品の世界に入りこめるんです。見える人も目をつむって音だけの映画鑑賞をしたら、自分が知らなかった世界と繋がるきっかけになるかも」(平塚さん)

ユニバーサルシアターに行けば、映画鑑賞にとどまらない楽しみが広がりそうだ。

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