ハウス食品が“涙の出ないタマネギ”を作った理由

包丁でタマネギを切ったら涙が出る――そんな常識を覆すタマネギが今年も発売される。涙が出ないという語源から、その名は「スマイルボール」。2015年に商品化され、毎年10月中旬から1月にかけて、百貨店や全国の小売店・ネットスーパーなどの店頭に並ぶ。

普通、生のタマネギには、独特のヒリヒリとした辛みがあり、それが涙の原因でもある。しかしスマイルボールを生で食べると、特有の辛みがほぼないどころか、リンゴのようなほのかな甘みを感じる。

収穫したスマイルボール

「実は、タマネギにはリンゴに近い10~11度の糖度があるんです」と教えてくれたのは、ハウス食品グループの朝倉健吾さん。ただその甘みは辛み成分に取って代わられてしまっている。「そこでスマイルボールの開発にあたっては辛み成分を抑え、タマネギ本来の甘さを浮き立たせました」(朝倉さん)。

きっかけはレトルトカレー

スマイルボールを開発したハウス食品は、レトルトのカレールーやシチューの加工食品の会社。加工を生業とする会社がなぜ生鮮食品であるタマネギを開発したのだろう。

発端はレトルトカレーの製造だった。約30年前、ハウス食品は、タマネギとニンニクを炒めるときにまれに起こる“緑変現象”に悩んでいたそうだ。タマネギとニンニクに熱を加えると普通はキツネ色になるのに、ごくたまに緑色になることがあるのだ。

家庭では使えても商品としては売り出せないため、緑変現象が起こった食材はすべて捨てなければならない。研究を進めた結果、ニンニクを十分加熱すればよいということで一件落着。その研究中に、タマネギの辛み成分についても新発見があったという。

涙をもたらす辛み成分は、2段階の化学反応でできるそうだ。タマネギを切ることで、タマネギに含まれる「プレンクソ」と呼ばれるアミノ酸の一種と「アリイナーゼ」と呼ばれる酵素が混ざり(第1段階)、さらに「LFS」と呼ばれる酵素がはたらく(第2段階)。ハウス食品が研究するまでは、LFSの存在や化学反応について知られていなかった。

この発見は02年の世界的な科学誌「ネイチャー」に掲載され、13年には、「タマネギが人を泣かせる生化学的なプロセスは、科学者が考えていたより複雑であることを、明らかにした」として、イグ・ノーベル賞を受賞。ただ、スマイルボールの開発には、構想から10年がかかったのだそう。

地道な努力のたまもの

スマイルボールは、品種改良によって作られている。「辛み成分に必要な酵素が少ない種を抽出して育てる」という過程を何世代も繰り返し、辛み成分のもととなる酵素が非常に少ない「スマイルボール」が出来上がったそうだ。

採種前の花球。さまざまなタマネギの開発を手掛ける植物育種研究所と一緒になり、「スマイルボール」のさらなる研究を進めている

今スマイルボールを作っているのは栗山町(北海道)にある15の農家。初年度の15年には6トンから始まって、17年は16年の10倍となる100トンを出荷する予定だ。「タマネギの年間出荷量100万トンからすればまだまだ小さい」と朝倉さんは言う。

17年の価格は1玉あたり150円~200円。初年度の400円に比べるとずいぶん下がったが、タマネギとしてはまだ高い。改良が進み、出荷量が増えれば、価格が見直される可能性もありそうだ。

大きくカットし、ハーブソルトとオリーブオイル、白ワインビネガーなどを添えた「生チップス」

スマイルボールのいちばんオススメの調理法はもちろん「生で味わうこと」(朝倉さん)。生で食べるときも水にさらさなくていいので、タマネギの栄養を丸ごと取れる。「オリーブオイルやソルトとの相性がいいので、サラダ用玉ねぎとして味わってほしい。軽くレア焼きにするとより甘みが増します」(朝倉さん)。

「タマネギを切ると涙がでる」ストレスから解放してくれるだけではなく、新しい味わいを提案してくれるスマイルボール。スーパーで見掛けたら、話のタネに手に取ってみるのもいいかもしれない。

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