ダイエットしてもあなたがやせない理由

「モテ、ヤセ、カネ」は、いまヒットを約束する3つのキーワードだと言われている。どれも簡単には実現できないけれど、誰もが少なからず持っている欲望。中でも「ヤセ」は「モテ」につながるが、いくらお「カネ」をかけてもなかなか結果が出ないと悩みが尽きない。

糖質制限にプチ断食、グルテンフリー、バナナだけ、リンゴだけ、豆腐だけ、肉魚だけ、体重計に乗るだけダイエットに低インシュリンダイエット、ちょっぴり頻回食い、アルカリ食品、腸内細菌でやせる――。ダイエットに関する書籍は優に3万冊を上回るという。

ダイエットにはなぜか流行がある。最近までダイエット最大の敵と言えば脂肪だったのに、気がつけば糖質が目の敵になっていると感じるのは私だけではないはずだ。しかし、糖質制限は1970年代にアトキンスダイエットとして大流行したのが最初で、決して新しい話ではない。

要は、ロングと言ったかと思えばショートに、ミニスカートと言ったかと思えばワイドパンツに変わっては戻ってくるヘアスタイルやファッションのように、ダイエットも流行を繰り返している。こう言ってしまうと元も子もないが、ダイエットは科学の顔をしてはいても、欲望に寄り添うほかの商品とあまり変わらない。

『ダイエットの科学』はそんな「不都合な真実」を前に、世のダイエットを網羅的に検証し、何をどう食べるべきかを考えるという本である。

注目すべきなのは、著者のティム・スペクターが、栄養学者ではなく遺伝学者であることだろう。

以前、私はスペクターが書いた遺伝子の本『双子の遺伝子』のブックレビューをしたことがある。この本もそうだったが、スペクターの本は、結論は出さず膨大な事例を紹介することで、判断は読者に委ねるというスタイルを持つ。そのため、「究極のダイエット方法は?」「結局、太るのは遺伝子のせいなの?」などと結論を焦る人には向かない。しかし、食べることについて自分で考え、自分で判断したいという人にはお薦めできる。

「食事に気をつけて、もう少し運動しましょうね」

私も含め、医者は当たり前のようにこの言葉を口にしてしまう。前提にあるのは、「食べた分-使った分=太った分」の等式。つまり、摂取カロリーのほうが消費カロリーよりも高いから太るという考えだ。病院の食事もこの等式に基づいて計算されている。

ところが、本書によれば「1キロカロリーはどんなときも1キロカロリーである」という考えは、基本的には正しいが、厳密には正しくない。

食品のカロリーの定義はあくまでも「1標準単位の乾燥した食品を燃焼させたときに放出されるエネルギー量」。しかし、「摂取エネルギーに対する反応はその人の体質や遺伝子構造によっても変わるし、腸内細菌の状況によっても異なる」からだ。

ここで、多くの医者は栄養学のプロではないことをこっそりとお伝えする。私の周りでも患者さんには食事に気をつけろと言いながら、自分はせっせと糖質制限をやっているという医者が多く、「ダイエットの科学」ではなく「ダイエットの流行」しか知らないのが現実だ。

糖質と脂質は結局どちらが悪いのか? 糖質制限すると早死にする? バターとマーガリンはどっちいい? チョコレートは体にいい? 和食は洋食より太らない? アルコールの「適量」はどうやって決めるの? 魚は肉よりも体にいい?豆乳は体にいい悪い? 果物の糖分は砂糖より体にいい? プチ断食は効果的? コーヒーは体にいいの? 太るのは遺伝子のせい?腸内細菌を鍛えればやせるって本当? 朝食を抜くと太る? ダイエットコークにすれば痩せる――?

気軽にダイエット本まで出して売れっ子になる医者もいるけれど、これらの質問すべてに本当の意味での確証をもって答えられる医者はまずいないだろう。これらはすべて『ダイエットの科学』で取り上げている質問だ。

そして、これらの問いに答える研究結果は、多くの読者にとって、驚くものばかりに違いない。

たとえば、「朝食を抜くと太る」は、私たちが半ば常識のように口にしてきたフレーズだ。しかしこれまで、朝食を抜いた人が朝食を食べた人よりも太ったという結果の出た研究はないという。

スペクターは結論を言わない人だと先に書いたが、本書では、特定の栄養素を減らしたり増やしたりする従来のダイエットにはどれにも疑問を呈する一方で、だからこそ特定の栄養素ではなく、腸内細菌に着目するのがダイエットの秘訣だとの「状況証拠」を随所で述べている。

しかし、この状況証拠をどう捉えるかという判断自体は、やはり読者自身に委ねられている。

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