“動物が見つけづらい動物園”が大人気なワケ

「アジアの熱帯林」に足を踏み入れると、生い茂る木々で太陽の光が一瞬、遮られた。ちょうど雨がぱらついてきて、土のにおいが漂ってくる。世界一美しいと言われるサル、アカアシドゥクラングールに大きな目で見つめられると、ここが都心からそう遠くない場所であることを忘れてしまう。

国内最大級の動物園として知られる「よこはま動物園ズーラシア」は、国内で先陣を切って、動物の生態に配慮した飼育・展示を行ってきた。「生息環境展示」と呼ばれるこの展示法は欧米ではスタンダードだけれど日本ではまだそれほど知られていない。

アカアシドゥクラングール。膝から足首あたりまでの毛は栗色や茶色

隠れた動物を見つけるワクワク

滝や藪を取り入れ急峻な山あいをイメージしたニホンツキノワグマの展示場で、一頭のクマが岩陰に身を潜めて休んでいた。小学生の親子が「どこにいる?」「見つけた! 薮の陰に黒いのが」と探し合う。

藪に身を潜めるニホンツキノワグマ(画像中央右)

飼育展示第一係長の須田朱美さんは、「多くの動物にとって大切なのは、土の地面を自由に動き回れて、身を隠せる植物や岩があること」と話す。アジアの熱帯林、日本の山里、アマゾンの密林……と分けた8つのエリアごとに草木まで再現。お客さんは、動物の暮らしをのぞかせてもらう、という感覚になる。

大きく深い池、岩場がたくさんある展示場を歩くホッキョクグマ

動物が安心して暮らせるよう気を配ったことで、「開園当初は『動物が見えづらい動物園』と言われたくらい」と須田さんは笑う。試行錯誤を経て、隠れた動物も“発見”できるよう作り変えてきた。吊るされたオモチャのボールを笹の陰から狙う子どものトラ、倒木の陰に身を潜めるチーターの姿など、動物本来の姿をのぞけるように工夫されている。

より野生に近い環境を再現したのが、15年に全面オープンした「アフリカのサバンナ」。キリンにグラントシマウマ、エランド、チーターが昼間は同じスペースで暮らしている。

4種の混合展示は日本でズーラシアだけ。シマウマとエランドの後ろ、倒木の陰に佇むチーター

肉食動物と草食動物を一緒にして大丈夫なのかと心配になるけれど、いちばん力が弱いのは、体が小さいチーターだ。野生のチーターは自分より小さいトムソンガゼルやイボイノシシを獲物にするので、大型の草食動物は襲わない。

チーターがじゃれ合いのつもりでシマウマにちょっかいを出そうものなら、集団で動く性質を持つシマウマたちに追いかけ返されてしまうことも。チーターは大型の動物たちが跳び越えていけない倒木の裏で休んでいることが多い。

いちばん手をかけるのは寝室

ところで、4種混合展示と言いながら“チーターがお休み”の日も。日によって展示場に出す動物を変えるので、よく見ると展示場に出ていない個体もたくさんいる。

「動物を豊かに飼育する」というズーラシアの信念がよく現れているのが、バックヤードの作り方。展示場に出ていない動物が過ごすサブパドック(非公開の運動場)は広大な敷地のかなりの割合を占める。

バックヤードで水浴びをするスマトラトラ

「24時間のうち開園時間は7時間。残りの17時間も動物たちが風通しのいい場所で健康的に過ごせるように」と須田さんは話す。

さらに、いちばん居心地がいい場所は寝室。木の上で巣を作って寝るチンパンジーには毎日、巣の材料になるワラと枝を用意。寝室に帰れば飼育員とたくさん遊んでもらえるという特典もあるから、彼らは寝室が大好きだ。

チンパンジーの親子

さまざまな動物が生きてゆける世界

手間もおカネもかけて生息環境展示を行ってきた背景には、「動物を取り巻く社会的な問題にも目を向けてもらいたい」(須田さん)という思いがある。

ズーラシアではベトナム戦争の枯れ葉剤の影響で数が激減したアカアシドゥクラングールをはじめ、マレーバクやオカピなど希少動物をたくさん飼育・展示する。絶滅危惧種や熱帯雨林の破壊といった生物・環境にまつわる問題提起のパネルは、園内の至るところに掲示されている。

オカピ。国内初公開に当たり、米サンディエゴ動物園でスタッフが研修を受けた

動物たちがありのままの姿で暮らすズーラシアを歩けば、私たちもヒトという動物であり、同じ世界に共存しているのだということを考えさせられる。

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