都心の小さな庭でできる“自然体験”って?


2歳の長女のブームはアリ。保育園からの帰り道、ビルの植え込みでひたすらアリを眺めている。その背中を見ながら、もっと自然の多いところで暮らしていれば……、と申し訳なく思うことがあった。

「最初の一歩は、街中の自然で十分なんですよ」と教えてくれたのはNPO法人 生態教育センターの理事長、小河原孝生さん。生態教育センターは2010年から、市民参加型の「お庭の生きもの調査」を主催している。

調査をするのは一般の人で、場所は家の庭。ひと月に1回ほど見慣れた庭をじっくりと観察し、見つけた生きものの種類と数をウェブサイトから書き込むというものだ。2016年度(5~8月)は北海道から沖縄まで1264人が300の庭で、虫や鳥など生きもののデータを集めた。

アリマキから蜜をもらうトビイロケアリ

小さな庭にも100種類の虫

「お庭の」と冠した調査ではあるが、家に庭がなくても大丈夫。家の近くの公園や花壇、ベランダのプランターなど定点観測ができる緑地ならどこでも構わない。はたして都心のマンションのベランダで調査するほどの虫に出合えるのかと心配になるが、小河原さんによれば「まったく問題ない」。

というのもこれまで集めたデータから、100㎡以下の庭に100種類以上の虫が生息していることがわかったから。「広い・狭いにかかわらず庭には多様な虫がいる。市街地に小さな緑が点在していることで、生物の多様性が保たれているのです」(小河原さん)。

アブラゼミ。都心の緑地でもよく見掛けることができる

市街地の庭によくいるのはモンシロチョウやアゲハなどのチョウやアブラゼミ、シオカラトンボにキムネクマバチ、ナミテントウなど。少なくなってきたと言われているベニシジミやショウリョウバッタもこれまでに100例以上報告された。

40年前は三重県が北限とされていたツマグロヒョウモンが関東圏へ北上していたことも確認された。氷点下では冬を越せないツマグロヒョウモンだが、温暖化やヒートアイランド現象などによって都心で暮らしていけるようになったらしい。自然豊かな野山ではなく市街地での調査だからこそ得られたデータだと言える。「都心の庭でツマグロヒョウモンを見つけたら『なぜここにいるのかな』と子どもに話してみる。それも環境教育の一つです」(小河原さん)。

ツマグロヒョウモン。幼虫はパンジーやビオラなどスミレ類を食べる

初心者向けには「アリの仲間」「スズメ」「モンシロチョウ」など20種の生きものがいるかどうかをチェックするコースがあり、親子で参加する人も多い。こうした調査に1度でも参加すると経過や結果の報告が届く。市民科学に貢献した、という証しだ。

しゃがんで葉っぱをめくると…

生態教育センターでは、市民科学のタネをまく活動も行っている。

主任研究員の村松亜希子さんは、子どもや親子向けの教室で講師を務める。虫を観察する場所に選ぶのは大きな公園ではなく、親子が何度も足を運べる身近な緑地だ。

お子さん(3歳)と一緒に虫を観察する村松亜希子さん。「一緒にいる大人がワクワクして子どもの発見を『いいね!』と肯定してあげることが大切」

虫たちは気温が上がってくるとよく活動するので、探す時間は昼間がいいのだそう。ポイントは、子どもの目線になること。「小さな子は虫を見つけるのが本当に上手。しゃがんで葉っぱを一枚めくって裏側を見るだけで虫たちに出合えます」(村松さん)。

幼虫に触わるときはそっと、アリにかまれると痛い、自分とは違う小さな生きものを触るときは配慮や力加減が必要……。そんなことも、子どもたちは身近な虫と触れ合いながら学んでいく。

村松さんが担当する小学生向けの教室では、虫が大好きな子がいる一方、チョウも怖がるくらい虫嫌いな子が一定の割合でいるそうだ。「幼い頃から親子で身近な体験ができたかどうかが差のつく一因だと思います。生きものと触れ合えるほうが人生は断然豊かになりますよ」(村松さん)。

夏の日中によく活動するオオスカシバ

お二人に話を聞いた日の帰り道、ビルの植え込みにしゃがんで子どもと同じ目線になってみると、アリたちが行列を作っていた。アリの数倍の大きさのチョウの羽を運んでいるのを見つけて 思わず「すごい」と声が出る。村松さんが「やってみるとお母さんのほうが夢中になる」と話していたワケがわかった気がした。

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