災害に遭った女性の心を守る「備蓄下着」

グレーのブラジャーとショーツ、布ナプキン。一見なんの変哲もないこの女性用下着セットの名前は「レスキューランジェリー」。地震などの災害時に活用することを想定して作られた非常用防災備蓄下着だ。

洗剤と、洗濯バケツにもなる防水バッグがセットになっている非常用。避難所など人目が気になる場所でも下着を隠しながら干せる工夫もされている。あるようでなかった“女性のための防災備蓄下着”は「被災地の女の人たちを助けたい」という、一人の女性の思いから生まれた。

災害のときに役立つ下着って?

この商品を開発したのは下着の開発・販売を手掛ける株式会社ファンクション代表の本間麻衣さん。本間さんは、3人の娘を育てるシングルマザーでもある。

2013年に下着ブランド「N.SENS」を立ち上げた本間さん。メディアの報道などで東日本大震災のとき避難所で暮らした女性たちの声を聞くにつれ、何か手助けができないかと考えるようになった。「入浴できず不衛生だった」「生理になって困った」「下着を干す場所がなかった」と話す女性たち。中には、着のみ着のままで1カ月お風呂に入れなかった人もいたと知った。“臭い”悩みは女性にとって特にストレスになったのだ。

Photo by MARIA

災害のとき、下着はあくまでも“自助(自ら備えるべきもの)”とされ、水や食料のように自治体を頼れない。一般的な“防災用備蓄下着”は使い捨て紙パンツや圧縮下着で、一度着てしまうと継続して使えないものが多い。「もっと実用的な備蓄下着があったら。年頃の娘がいる母親にとっても、下着は災害時に切実な問題になるだろうと思ったんです」(本間さん)。

「レスキューランジェリー」は、下着(ブラジャーまたはブラトップ、ショーツ、布ナプキン)、洗剤、バッグの5点セット。下着に使う生地は「竹布」。紙や綿に比べて抗菌防臭効果が高く、通気性のある天然素材だ。たくさんの水を使えない避難所生活の水環境に配慮して、すすぎが1回で済む洗剤を同梱。防水加工を施したバッグはバケツ代わりにしてつけ置き洗濯ができる。氷のうとしての使用や、2リットルの水を持ち運ぶこともできるようにした。

最終パッケージ状態。外袋もウォーターキャリーとして使える

普段身に付ける下着ブランドの「N.SENS」では、キッズサイズでも大人っぽいシックなデザインを展開しているが、「レスキューランジェリー」は、あえてグレーのシンプルなデザインにこだわった。避難所で干しても目立たず、盗難にも遭いにくいようにと考えたためだ。本間さん自身が、女の子の母親であったことも、こうした配慮につながったのだろう。

下着で女性の心も守る

開発をスタートしてから何度もテスト改良を重ねて完成した「レスキューランジェリー」。15年9月に、本間さんの故郷である茨城県常総市で河川決壊による水害が起き、活躍することになった。本間さんは知人のツテをたどり、「レスキューランジェリー」の試作品を水海道小学校など3カ所の避難所に届けた。

茨城県常総市の水害時には、レスキューランジェリーの“簡易洗濯機”であるバッグを提供した

実際に避難生活を送った人にアドバイスをもらって、改良した点もある。たとえばバッグ。洗濯機能に加え、下着が干せる機能を加えた。ヒントになったのは「避難所には洗濯ボランティアがいてくれるが、自分や家族の下着だけは自分たちで洗いたい。ただ干す場所に困る」という声。バッグの中に紐をつけ、口にはワイヤーを入れ、物干しとして使えるようにした。布ナプキンは正方形に。使うときは三つ折りにするが、広げてしまえば“ただのハンカチ”なので外に干しても気にならない。

「レスキューランジェリー」は自社のオンラインストアなどで販売している。自治体もその重要性を認めつつある。川崎市多摩区役所へテスト納品をしているほか、今夏からは茨城県常総市のふるさと納税の返礼品になる予定だ。

「レスキューランジェリーは被災した女性の体だけではなく、心も守るもの」(本間さん)。とはいえ、現時点では、備蓄下着はまだまだ“自助”のアイテムだ。自治体や企業の防災備蓄としてもっと広がるよう、本間さんはまだ歩を緩めないつもりだ。

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