星野リゾートが“無名の地”でも成功できるワケ

ゴールデンウィークに帰省したとき、友人と大阪の街を歩いた。通天閣・新世界で名物の串カツを食べながら「これぞ大阪」というローカルな雰囲気を満喫していると、友人が「星野リゾートのホテルができるのってこの辺りだよね」とつぶやいた。

今年3月、大阪市がJR新今宮駅前にある市有地約1万4000平方メートルを、「星野リゾート」に売却したと発表した。星野リゾートにとって、都市に大型ホテルを自社開発して運営するのは初めてとなるそうだ。

運営に全力を注ぐ

圧倒的な非日常をテーマとした「星のや」、上質な日本旅館をテーマとした「界」、ファミリーに優しいリゾートホテル「リゾナーレ」など、国内外37の施設を手がける星野リゾート。実は施設そのものは所有しておらず、運営に特化した企業だということはご存知だろうか。

「運営に特化することで、施設の価値を高めることに集中できるんです」と教えてくれたのは、星野リゾートの森下真千子さん。

星野リゾートは、すでに運営している旅館やホテルから「依頼を受けて」、施設の運営をしている。最近では、自治体から「温泉街を活性化させてほしい」といった相談もあるのだそう。声がかかった場所に飛んでいくスタイルなので、沖縄県の竹富島に青森県の奥入瀬と、観光地としてはさほど有名ではなかった場所にも“星野リゾートの施設”が増えていく。

アイデアは現場のスタッフから

星野リゾートがいちばん大切にしているのは、現場のスタッフ。普通は限られたメンバーだけが考える「コンセプト」や「季節のプラン」を現場のスタッフ全員で考える。

北海道勇払郡のリゾナーレトマムで10年以上続く「雲海テラス」。朝日を浴びながらゴンドラに揺れて行き着く先は、幻想的な雲海の世界。山頂の施設をメンテナンスするスタッフが毎日のように目にしていた光景を、「お客様に見てもらうのはどうだろう」と発案したのがきっかけだった。

雲海テラス

その地域で日々暮らしているスタッフだからこそ、自然と出てきたアイデア。雲海テラスはお客さんからの人気を集め、リゾナーレトマムの定番プランとなった。その後もスタッフから意見を募ってデッキを新設したり、インテリアを雲で統一した「雲スイートルーム」のプランを作ったりと毎年ブラッシュアップしている。

青森県の奥入瀬渓流ホテルでも、苔に詳しいスタッフの目利きで、珍しい苔を観察しながら散策するツアーを始めたところ人気に。今年は「苔ガールステイ」という滞在プランを提供する予定だ。

奥入瀬渓流ホテルのラウンジでは「苔玉アイス」も味わえる

お客さんをひきつけるアイデアがスタッフからどんどん出てくるのは、「スタッフ全員が同じ目線に立てるフラットな組織づくり」(森下さん)を、星野リゾートが意識しているから。施設のコンセプトや新しい魅力やプランは、スタッフ全員が参加できる会議で決め、どんな話し合いを経て決まったかを皆が共有する。スタッフは単にサービスを提供する人ではなく、地域をいちばんよく知るクリエイターなのだ。

全員がマルチタスク

現場のスタッフが、日々の業務だけではなく、クリエイティビティを求められる魅力の開発に時間を充てられるのは、生産性の高さによるところも大きいだろう。

ホテルや旅館のスタッフはフロント、客室清掃、レストランでの配膳と、役割ごとに業務をわけていることが多いが、星野リゾートのスタッフは一人ですべての役割をこなす。場所ごとにスタッフをわけるより少ない人数で運営できるので、たとえば「星のやバリ」のスタッフは約70人と、同じ地域の同じ規模のリゾートと比べておよそ半分。生産性を高めたことで、浮いたおカネは次の投資に充てられる。

「星のやバリ」ではたらくスタッフ

もう一つ、一人のスタッフがゲストの情報を把握し、滞在中は一貫してサービスを提供できるというメリットもある。チェックインのときにゲストがハネムーンだと知れば、客室やレストランでちょっとしたサプライズを提供する、といったサービスも自然と生まれる。

ニッチだから魅力を引き出せる

星野リゾートがいま展開している施設は、必ずしもアクセスがいいわけではない。それどころか、声がかかった時点では観光地としてほとんど無名であることも少なくなかった。「だからこそやりがいがあり、その土地の魅力を引き出せる可能性も高いのです」(森下さん)。

2016年に開業した「星のや東京」

これからもっと盛り上げていこうとしているのは、これまで手薄だった都市観光。2016年には「大都会に日本旅館」という斬新な試みの「星のや東京」を開業し、17年春からは北海道の旭川グランドホテルの運営を手がけている。22年の開業を目指す大阪・新今宮では、ビジネスホテルが中心のエリアに、観光客が泊まる先として“テンションが上がる”ようなホテルを作ろうとしている。

都市観光という新たなキーワードで、星野リゾートに4番目のブランドが誕生する可能性もあるかもしれない。

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