工房系ランドセルブームはここから始まった

土屋鞄,ランドセル
来春、娘が小学校に入学する。ママ友とも「ランドセル、どうする?」と話すことが多くなってきた。

最近では色やデザインもさまざまなランドセルだが、ここ10年ほどで特に人気が高まっているのが、工房で作られたものだろう。“工房系ランドセル”のヒットの火付け役ともいえるのが、土屋鞄製造所。人気が過熱し、予約受け付けの当日にサイトへアクセスしづらくなった年もある。

300工程の手仕事

土屋鞄は、創業者である土屋國男さんが1965年に始めたランドセル工房。以降、50年にわたってランドセルを作り続けている。

量販店に並ぶ大量生産型のランドセルに比べると、土屋鞄のランドセルは実にシンプル。派手さはないものの、細やかな手作業の積み重ねでできている。たとえば肩ベルトなど負担がかかりやすいところは手縫いで補強。

擦れやすい角の部分には、革をあてて「菊寄せ」と呼ばれる技法で包み丈夫に仕上げる。見た目も美しく仕上げるのが職人の腕の見せ所だ。一つのランドセルを作るのに必要な工程は、なんと300に上るのだそう。

土屋鞄,ランドセル

6年間使うものだからこそ、細部までこだわり抜く

主力であり売れ筋でもあるのは、牛革製のランドセル。「1枚1枚に個性があるので人工皮革と比べて扱いが難しいのです」。そう話すのは、土屋鞄製造所・広報の清野智子さん。職人として一人前になるには5~10年を要するそうだ。新しい革や芯材などを取り入れるときは、6年間使ったらどうなるかを検証する機械で、環境の変化に耐えられるかを調べている。

一見すると、毎年さほど変わらないように見えるけれど、実は縫製の仕方や芯材を変えるなどランドセルは少しずつ改良されている。修理を依頼されたとき、どうしたらより丈夫になるかを研究してものづくりに生かしているのだという。

土屋鞄,ランドセル

牛革を扱う熟練の職人

子ども目線のものづくり

東京都足立区の西新井本店に併設された、ランドセル工房をのぞいてみた。職人さんたちが150のパーツを一つひとつていねいに縫い、組み合わせ、点検している。

見学スペースと工房との間にあるついたてには子どもの目線に合わせて窓が設けられていて、作業する職人からも見学する子どもたちの姿がよく見える。「職人たちは“誰がこのランドセルを心待ちにしているか”を日々意識してランドセル作りをしています」(清野さん)。

西新井本店には工房を見学できるスペースがある。ついたての「窓」は子どもの目線に合わせて設けられている

工房の中で目立っていたのは、若い職人たち。女性もたくさんいる。創業時は土屋さん1人だった職人も、今では70代のベテランから新卒の若手まで70人ほどに増えた。

2000年代初め、土屋鞄は若手を積極的に採用し始めた。それまではいわゆる家族経営の小さな鞄屋さんとして、地元の団地の一角でランドセル販売会をするなどしてきたけれど、職人が徐々に高齢化し後継者不足に悩まされることになったのだそう。大学や専門学校でものづくりを学んでから入社してくる人も多い。ランドセル作りを任せられる職人が増えたことで、「土屋鞄のランドセルが欲しい」という声により多く応えられるようになった。土屋鞄,ランドセル

手作業でできたランドセルは、実店舗とオンラインショップでのみ販売する。創業以来“直販”にこだわる理由は、「直接お客さまに思いや、職人のこだわりを伝えたいから」と清野さん。「長く使い続けてほしい」という思いから、革や金具などの材料にこだわっているので、材料費はほかのブランドより高め。デパートなどに卸すとマージン(売買差益)がかかってしまうので、あえて直販にしているそうだ。

変わったものと変わっていないもの

ものづくりへの真摯な姿勢は創業時から変わらない。そんな中、この10年で大きく変わったのは、“伝え方”だという。「美大生をたくさん採用したこともあって、商品の魅力をどう伝えるかをより意識するようになったのです」(清野さん)。

土屋鞄のカタログはとても洗練されていて、特にお母さん世代の女性が手に取りたいと思うデザインに仕上がっている。シンプルでありながら、ランドセルに込める思いや職人たちのものづくりがわかりやすく伝わってくる。工房でのものづくりの様子などを伝えるインスタグラムのアカウント、「土屋鞄のランドセル(@tsuchiya_randoseru)」には2万3000人のフォロワーが付いている(2017年5月時点)。土屋鞄,ランドセル

土屋鞄が“伝える力”を磨いたこと、実際に使った人たちがSNSを通じて口コミをしたこと、その二つが組み合わさって、土屋鞄の認知度が上がってきたのだろう。

今はインターネットで何でも買える時代。たくさんの情報、選択肢の中から、より上質でていねいにつくられたものをわが子に選びたい。土屋鞄をはじめとした工房系ランドセルのブームからは、改めてそのような消費者心理が見えた気がする。

  • この記事をシェア
トップへ戻る