おしゃれな付箋のヒットから経済が見える

Photo by Designphil Inc.

週末、ある大型雑貨店に立ち寄ったら、おしゃれでかわいい付箋(ふせん)の特設棚が作られていた。ハート型や動物モチーフのもの、中には“イケメン”がコメントしているように見えるデザインまで。付箋といえば「オフィスでメモとして使う」というイメージだったけれど、最近はそうでもないらしい。

気軽に気持ちを伝える

『ポスト・イット ノート』として親しまれているのが、大手である3Mの付箋。オフィスや学校で使われることも多いから、きっと一度は目にしたことがあるだろう。垂直面やプラスチック面に貼っても落ちにくい「強粘着」シリーズはここ10年、二ケタ成長を続けているのだそう。

ネコのシルエットは人気商品の一つ

そんな3Mは2013年、「シルエットデザインシリーズ」の付箋を売り出した。ハートやネコ、吹き出しといったかわいらしいデザインが30~40代の女性を中心にウケている。「これまで培ってきた知見を生かし、凝ったデザインでも書きやすく貼りやすいことを意識しました」と話すのは、マーケティング部の風早尚子さん。

座談会でユーザーに聞いてみたところ、オフィス以外のさまざまなシーンでも使われていることがわかった。「お母さんが子どものお弁当に添える一言メモや、ママ友に手作りのお菓子を渡すときのメッセージとしても活躍しているようです」(風早さん)。

シルエットデザインシリーズを使って、子どもへのメッセージを書くお母さんも多い

手紙やカードでは重すぎるけれど、デザイン付箋なら気軽に気持ちを伝えることができるのだ。

手帳を“デコる”ための付箋

文具メーカーのデザインフィルが12年に発売した「ひみつ付せん」も、コミュニケーションツールとしてヒットしている。ひみつ付せんは、二つ折りにしたとき書き込んだメッセージを隠すことができる。メッセージを隠す部分がアフロやリーゼントだったり、折り返すと白ヤギが手紙をくわえたりと、くすっと笑ってしまうようなデザイン。

「両面印刷をしているので、折ったときに初めてデザインが完成します。コミュニケーションのきっかけにしてもらえたらうれしいです」(デザインフィルの鵜川まどかさん)。わざわざメッセージを隠すという点からして、「自分のため」ではなく「誰かのため」に使う付箋だ。

もらった人には、開ける楽しみも。手紙ほどかしこまらないけれど特別感がある Photo by Designphil Inc.

入れ替わりが激しい文具の市場で、最初に発売したヒゲやアフロは5年も販売を継続していて、今も人気がある。童話をモチーフにしたメルヘンチックな第2弾、とぼけた表情の動物をモチーフにした第3弾に続く新たなデザインも考案中なのだそう。

最近売れているのは、手帳やノート専用の「フィルム付せん キラリ」。変わりやすい予定を書き込んで手帳に貼ったり、ノートを自分仕様にデコったりする。「半透明の付箋の一部を重ねて貼ると雰囲気が変わりますよ」と鵜川さん。シールと違って、何度も貼り直せるところがよいのだそう。

デザイン付箋はなぜ増えた?

デザイン付箋の種類は増え、店頭でも特設棚が作られるほど盛り上がっているように見える。

ただ、「付箋の市場そのものが大きくなっているとはとらえていないのです」と3Mの風早さんは言う。2008年のリーマンショックを機に、文具の一括購入をやめる会社が増え、オフィス向けの文具を扱うメーカーはいずれも大きな影響を受けた。

一方で、これまで自分で文具を買わなかったオフィスワーカーが、店に出向いて好きなデザインの文具を選ぶようにもなった。目に留めてもらいやすいよう、文具メーカーは商品のデザインを工夫した。

3Mの『ポスト・イット ノート』は世界じゅうで使われているけれど、シルエットデザインは日本で企画され、日本だけで売られているという。冷蔵庫などに固定してティッシュのように引き出せる、ペン立て付きのディスペンサーもお母さんたちに人気がある。

別売りのディスペンサーを使えば冷蔵庫に“常備”しておける(強粘着タイプのポップアップノートのみ対応)

付箋のように参入しやすい市場には、これまで文具を売ってこなかった新興メーカーも続々と入ってきている。こうして店頭に並ぶおしゃれでかわいいデザイン付箋が増え、はたらく人だけでなく主婦や学生も虜になった……。

「1000円以内であれこれ選べるのは楽しいですよね」と、デザインフィルの鵜川さんが言うように、一つひとつの価格がそこまで高くない文具は、好況や不況にかかわらずヒットしやすい商品でもある。

デザイン付箋のヒットをひもとくと、そうした経済の流れも見えてくる。

  • この記事をシェア
トップへ戻る