ちょっと割高なのに大人気のレタスは“工場産”だった

家の近所のある部品メーカーが、空き工場を使ってレタスの栽培をしていた。「工場でレタス?」とビックリしたけれど、こうした植物工場は各地にあるらしい。

植物工場では、人工的に光や空調を管理して野菜を育てる。農地として使える土地が少ない都市部でも一年を通して野菜が収穫できる。政府の後押しもあってここ10年ほどの間に植物工場は増えたがその多くは黒字化できていない。そんな中、玉川大学と西松建設が2012年に立ち上げた「サイテックファーム」は順調に運営できているという。

割高なのにどんどん売れる

サイテックファームは玉川大学のキャンパス(東京都町田市)内にある工場で、LED光源を使った水耕栽培でレタスを育てている。13年から「夢菜(ゆめさい)」というブランド名でレタスの販売を始めた。

夢菜ブランドのレタス

現在はレタスだけで7種類の商品があり、主に小田急線沿線のスーパー「Odakyu OX」の全26店舗で売っている。店に並べて3日間での販売率は、常時90―95%程度で推移しているそうで、売れ行きはとてもいい。ほかにも紀ノ國屋やホテルにも出荷していて、1日当たり3000株前後が生産できる工場はフル稼働だ。80gサイズで198円、150gサイズで398円と、普通のレタスより割高なのになぜこんなに売れるのだろう。

土を使わず、クリーンな環境で農薬を使う必要もないため、買ってきたレタスは洗わずに食べられるほどきれい。LEDの光をコントロールして葉が柔らかくなるなど、メリットもあるという。実際、夢菜を食べた人にアンケートを取ったところ、「洗わないでそのまま使えて、手間がかからない」「日持ちがする」といった声があり、一度に2、3袋を購入していく人もいるそうだ。

植物工場の誤算って?

ではなぜ、ほかの植物工場では、運営がうまくいかないのだろう。

「できる野菜がヒョロヒョロとしていたり、みずみずしさがなかったりと、品質がよくないことがいちばんの原因だと思います」と話すのは、サイテックファームの生産システムを開発した、玉川大学農学部教授の渡邊博之さん。

研究施設で学生を指導する渡邊博之さん

素人の発想だと、植物工場のシステムさえ作ればおいしい野菜ができると思ってしまう。しかし渡邊さんによると、同じ品種でもそれぞれの種が持っている遺伝子は違うので、同じように育てても育ち方に違いが出てくるという。「バラつきを予想しながら栽培環境の調節を考えなければ、うまく育てることはできません」(渡邊さん)。

20年にわたる失敗から…

渡邊さんは20年以上前からLEDを使った植物栽培の研究をしてきたが、「始めた当時はすごく奇抜な発想に思われていました」(渡邊さん)。しかし渡邊さんは、赤なら赤、青なら青、と単色で発光できるLEDの特性が植物栽培にうまく生かせると信じ、失敗しつつも経験を重ねてきた。

難しいのは光の調節だけではない。温度や水耕液の栄養、湿度にも気を配らなければならない。そして意外に重要なのは空気の動きだという。「植物は葉から水分を蒸発させる力を使って、根から水や養分を吸い上げています。蒸発がうまくできないと育ちが悪くなるのです」(渡邊さん)。植物工場では人工的に適度な風を送る必要があるが、気流をコントロールするのもとても難しい。

サイテックファーム

工場を見せてもらうと、品種や生育状況によって細やかにLEDライトが調節されていた。自動化が進んでいるものの、種まきや苗の植え付け、出荷前の点検や形を整える作業は人が行っている。ちなみに工場は大学の中にあるものの、学生がボランティアで手伝っているわけではない。パート職員の人件費を含め、電気、上下水など、全ての生産コストをレタスの売上げでまかなっている。

ビジネスとして成り立たせるには、売り先をどう確保するかも大きなポイント。渡邊さんらは品質重視の姿勢を打ち出すため、上質でこだわりのある商品をそろえる「Odakyu OX」で売ってもらうことにした。各店舗へはトラックが効率よく配送しているので、配送コストを抑えられるのも大きい。「Odakyu OX」としても産地直送で、安全性やおいしさ、料理の手軽さなどを兼ね備えた夢菜なら、自信を持ってお客さんに提供できると考えたという。

赤い光で甘みが増す

それでも一年を通して利益を確保するのは大変なのだという。「旬の時期、畑で作られるレタスは本当においしくて安いので、競争も厳しくなります」(渡邊さん)。

LEDの光の色合いによって見栄えや食感をコントロールしている

植物工場のレタスは、LEDの赤色の光で育てると甘みが増し、青い色だと野菜特有の風味が強くなる。夢菜はLEDの光量をうまく調節することで、レタスの色合いや見栄え、食感などもコントロールしている。さらにビタミンCやポリフェノールといった抗酸化力を畑のレタスに比べて約2.6倍以上アップさせるなど魅力を打ち出している。

今後はキャンパスの外に大きな工場を作り、ビジネスの規模ももっと大きくしていく予定。「夢菜だからもう一度買いたい」と思ってもらえるような野菜づくりをこれからも追求していくつもりだ。

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