低出生体重児を取り残さないための母子手帳

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妊娠した人には、誰にも平等に、例外なく配布される「母子健康手帳」。出産、育児と子どもの成長の記録でもある。

しかし、母子手帳のグラフをよく見ると、体重の最小目盛りは1kg。低出生体重児のおかあさんにとって、母子手帳はほかの子との違いを思い知らされる冊子でしかない。

母子手帳は10年に一度、大幅な改訂が行われ、平均身長や体重など成長曲線も変わる。低体重で生まれ、昔は救えなかった命も医療の進展によって救えるようになった。それなのに目盛りは1kgからスタートしているのだ。

低出生体重児の成長記録を

静岡県に住む小林さとみさんは14年前、妊娠27週で927g、466gの双子を産んだ。

「出産直後、保育器の中の2人を見て受け入れられない自分がいる。とにかく自分を責めた。最初のミルクは、わずか1cc。そこから2cc、3ccと増えていき、体重が増えるのがうれしかった」というが、母子手帳のグラフに記入する欄はない。

半年以上も入院生活を送っていたので定期健診は受けていないが、それでも、それぞれの月齢で「できた」「できない」にチェックをするのは「できないばかりにチェックするのでつらかった」と小林さん。

そんな中、小林さんは熊本県に「リトルエンゼル手帳」なるものがあることを知った。これは、熊本県が出生体重1500g未満児向けに、2006年から配布している母子手帳。記録編と読み物編の2冊セットで、通常の月齢と修正月齢で記入でき、「いつ何ができたか」などを記録できる。

低出生体重児向けの母子手帳「リトルベビーハンドブック」

2007年から静岡県立こども病院のNICU(新生児集中治療室)卒業生のサークル「ポコアポコ」の代表を務めている小林さんは、「静岡県にないなら作ればいい」と、低出生体重児向けの母子手帳「リトルベビーハンドブック」を作成。静岡県立こども病院の小児科医や助産師、作業療法士など、全面協力のもと完成させた。

「普通の子と同じくらいになるまで、付帯して使えるものにしたかった。『できる・できない』ではなく『いつできたか』に置き換えたり、予防接種一つとっても計画が狂ったりするので、親として困ったことをお母さん目線ですべて盛り込みました」(小林さん)

誰一人残さず命を守る

2016年11月、東京で開催された「第10回母子手帳国際会議」のメインテーマは、「だれひとり取り残さない(Leave No one Behind)」。貧困による栄養失調から健康を守る、難民になろうとも母子の生命を守る――。低出生体重児も「だれひとり取り残さない」対象だ。

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この国際会議の委員長であり、甲南女子大学特任教授で、母子手帳の世界への普及に努めるNPO法人HANDS代表の中村安秀さんは、「母子手帳の成長曲線の始まりは『0』(ゼロ)スタートでいい。誰も取り残さないための母子手帳って、そういうところから変えていかなければいけない」と力説する。そして、「女性、子ども、家族、そして社会の誰もが取り残されない世界」を実現するために母子手帳が大切だと訴える。

現在、母子手帳を取り入れている国は39カ国。その中で先進国は、日本のほか、オランダと米国ユタ州だけだが、オランダでは母子手帳のデジタル化が進んでいる。

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低出生体重児には低出生体重児の、ダウン症にはダウン症の成長曲線がある。デジタル化によってそれぞれの成長曲線をすぐに作成できるようになったという。ほかにも、多言語化への対応、予防接種の自動通知などメリットは大きい。

また、「情報過多の時代、日々あふれる情報を取捨選択しながら判断するというのはお母さんにとっても負担が大きい。オランダではテーマごとに必要な情報にアクセスできるようになっていて、お母さんたちが余計な心配をする必要がないよう配慮されている」(中村さん)

電子母子手帳の可能性

日本における母子手帳のデジタル化はまだまだこれから。モバイルコンテンツ企業のエムティーアイでは、2014年から電子母子手帳の企画・開発を手掛けており、いくつかの自治体との実証実験を重ねながら全国展開を目指している。

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日本のヘルスケア分野で急速にICTが活用されつつある中で、「個人の母子手帳データが学童期にも健康管理手帳として引き継がれ、さらに社会人になっても健診データや電子お薬手帳などを蓄積しながら、一生の健康管理ができるライフログになる」(エムティーアイ)と大きな可能性を秘めていることは確かだ。

時代とともに形を変える母子手帳が、すべての母子、家族、社会の誰も取り残さないためのツールであり続けるためには、きめ細やかな変革が求められているようだ。

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