荷物を預けたい人を街のお店とつなぐサービス

Photo by MARIA

お母さんにとってベビーカーは便利な存在であり、一方で、不便な存在でもある。

「階段のある建物にベビーカーを抱えて入るのは大変」「ベビーカーで狭い店内には入りにくい」「2~3歳になって子どもが歩きたがるようになった」……。お出掛け先でベビーカーが“お荷物”になることもしばしばある。小さい子の手を引きつつベビーカーを押しながら、「どこかに預けられたらいいのに」と思うお母さんは1人や2人ではないはずだ。

そんな悩めるお母さんの救世主となりうるサービスが、この1月から東京の一部エリアで始まっている。「荷物を預ける人」と「荷物を預かるスペースを持つお店」をつなぐ、荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak(エクボクローク)」だ。

コインロッカーは“使えない”

「もっと身軽に街歩きができるようにしたかった」と話すのは、ecbo株式会社の代表・工藤慎一さん。あるとき工藤さんは、渋谷の街でたくさんの荷物を抱えた外国人に声を掛けられた。荷物を預けるためのコインロッカーを40分かけて探し歩いたが、結局、空いているロッカーを探すことはできなかったという。

Photo by ecbo cloak

その体験がきっかけとなり、工藤さんは都心のコインロッカー事情について調べてみたという。「コインロッカーは、意外と“使えない”のです」(工藤さん)。

たとえば、1日50万人が訪れる渋谷に、コインロッカーは1400ある。ただ、そのうち大型ロッカーはたったの90個。日中は埋まっていることが多く、運よく空いていても、楽器や海外製の大きなスーツケースだと入らないこともある。2つ3つと荷物を持つ人が、同じ場所で預けるのは至難の業だ。

3割の人が店のサービスも使う

Photo by ecbo cloak

エクボクロークは、スマホやPC上で、荷物を預けたい人と預かってくれるスペースをつなぐ。預けたい人は、住所や地図から預け入れスペースを探し、オンラインで日時を予約。当日は店のスタッフに荷物を渡すだけでいい。荷物を受け取るときにクレジットカードで決済される仕組みだ。

料金は、バッグサイズ(45cm以内)なら1日300円、スーツケースサイズ(45cm以上)なら1日600円。時間単位で料金が発生するわけではないところも魅力だ。

預かりスペースにはブックカフェも Photo by ecbo cloak

面白いのは、預かりスペースを提供しているのがカフェやシェアオフィス、美容院にホテルといった、荷物預かりを本業としていない店や会社であるところ。レジ裏やスタッフルームといったいわばデッドスペースを活用し、荷物を受け入れてもらっている。

店にとっては新しいお客さんの開拓にもつながるし、エクボクロークを通じて存在をPRすることもできる。「カフェであれば荷物預かりの前後でコーヒーを飲むといった具合に、荷物を預ける人の3割が店のサービスを使っています」(工藤さん)。

もともと、かさばる荷物を持つ旅行者や出張中の会社員向けに作ったエクボクロークのサービスだが、「ふたを開けてみると、買い物袋にスキー板、楽器にベビーカーと、預けられる荷物が多様で驚いた」と工藤さんは言う。ベビーカー預かりの事例からは、新たなサービス展開のヒントをもらったという。

プラスアルファの体験を

東京郊外に住み、3歳の男の子を育てる宮本敬史さんは、渋谷に出掛けるときは必ず、エクボクロークを使ってベビーカーを預けるようになった。

「子どもが走り回らないよう電車の中ではベビーカーを使うが、降りたらいらなくなる」と宮本さん。子どもが歩ける距離が長くなったことに加え、訪れたい店が半地下にあったり狭かったりとベビーカーでは入りにくい場所にあるそうだ。

パンケーキ店「sunny STORE&CAFE」

宮本さんはよく、表参道駅のそばにあるパンケーキ店「sunny STORE&CAFE」にベビーカーを預けるという。利便性がいいうえ、広々とした店内だからベビーカーも入りやすく子連れファミリーに人気の店だ。「荷物を引き取りにくるついでに、子どもと食事をして帰ることもできます」(宮本さん)。

荷物の預かり先を気に入って使っているという声は、ほかのユーザーからも聞かれる。エクボクロークでは荷物を預かる店にもこだわっており、ただ単にデッドスペースがあるというだけでは登録に至らない。「ユーザーには、プラスアルファの体験をしてもらいたいのです」(工藤さん)。

Photo by sunny STORE&CAFE

2016年12月にオープンした、東京・馬喰町駅直結の「Train Hostel 北斗星」もその一つ。惜しまれつつも引退した寝台列車「北斗星」の一部実写パーツを利用して作られた宿泊施設だ。電車好きの子どもや家族連れにも人気の施設だが、宿泊者以外は入りづらい。エクボクロークを通じて荷物を預ければ、それを“口実”に中をのぞくことができるのだ。

渋谷、新宿、浅草でサービスを開始したエクボクロークは、夏ごろまでに京都や大阪、福岡とエリアを広げ、まずは観光地を中心に全国展開する予定だ。「子育て中のお母さんからは、住んでいる街の最寄り駅周辺で預けたいという声も聞いている。将来的に、すべての駅周辺でサービスを展開できたら」と工藤さんは話す。

荷物を預ける人と店のスタッフとの間でコミュニケーションが生まれることもたくさんあるそうだ。荷物を預けて身軽になり、楽しい会話で心も晴れやかになれば、街歩きがもっと楽しくなりそうだ。

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