アーティストも歓迎するライブの小さなお客様

Photo by MARIA

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あるライブの終演後、会場近くを歩いていると、ベビーカーを押すお母さんたちが、ぞろぞろと出てくる姿を目撃した。この日のライブはいわゆる“ビジュアル系”のバンド。黒いレザーのジャケット、スタッズのついたブーツ、派手目なメイク……。そのお母さんたちがバンドのファンであることは一目瞭然だった。

時刻は22時を過ぎている。いったい何事だろうと近くまで駆け寄ってみると、何とこのライブでは、会場に設けられた託児会場に子どもを預けてライブを楽しむことができるというサービスを行っていた。

この託児サービスを行っているのはベビーシッターやイベント出張託児事業を展開する「あいね」。行政関係やスポーツイベントでの出張託児も多数受けているが、あいねはロックコンサート会場でのサービスを多く手掛けている。

ライブは自分が楽しみたい

最近は“子連れOK”の音楽フェスやライブが盛り上がりを見せていて、お父さん、お母さんになっても好きな音楽をライブで楽しめる環境が充実してきた。ところが、子連れでのフェス参加は自分が楽しむというよりも家族全体でのレジャーという意味合いが強く、子ども優先で行動することになりがちだ。

筆者自身も親子連れで参加できるコンサートに行ったことがあるけれど、途中で子どもが飽きてしまって泣く泣く退席した経験がある。自分がライブを楽しみたいという場合は、子どもを家族に預かってもらうなどして一人で出掛けるほうが賢明かもしれない。

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あいねの託児は、ライブ会場のすぐ近くで子どもを預かってもらえるので、開演時間ギリギリまで子どもと一緒にいることができる。まだ授乳が必要な赤ちゃんでも安心だし、何より、子どもを置いて自分だけが出掛けることに対する罪悪感がちょっと薄れる。

開場から開演まで1時間、公演が約2時間とすると約3時間の預かり時間に対して料金は子ども1人当たり5000~6000円くらい。通常のベビーシッターなら、1時間1000円程度で自宅に来てくれるサービスもあるが、自宅から会場の往復時間も加味すると4~5時間ほど要するので、トータルの金額を比べれば決して高くはない。

子どもたちが安心できる環境

あいねは、15年前の創業時、埼玉県の西武ドームで開催されたコンサートの出張託児を依頼されたことをきっかけに、こうした出張託児サービスを続けてきた。

託児は原則的に会場内で行うが、コンサートホールやアリーナといった大規模な会場は、普段は子どもが来場することを想定していない施設も多いので、子どもを預かるうえで配慮しなければいけないことは多いという。

音漏れや振動、照明、室温に気を使うのはもちろんのこと、開場と同時に一気に多くの人が会場入りする風景に子どもたちが緊張して不安な気持ちにならないよう安心して過ごせる環境を作らなければならない。

部屋には不特定多数の人が出入りしないこと、ドアやさくなどのガードがあり子どもが室外へ飛び出さないことなど安全性の確保にも念を入れる。実際の広さや雰囲気、窓の配置やトイレまでの距離など、現場の下見も欠かせない。

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「場所も対応させてもらうお子さんも日々変わるから、『慣れる』ということがないんです」とあいねの代表・松本和世さんは言う。

当日は事前に渡されたセットリストやモニターでライブの進み具合を確認しながら、子どもたちとの過ごし方を考える。以前、松本さんが会場内の進行がわからなくなったときには、モニターから流れてくる曲を聞いた子が「これは〇〇の曲だよ」と教えてくれたというほほえましいエピソードも。「お母さまが普段から聴いているのを一緒に覚えていたんでしょう」(松本さん)。

アーティストも主催者も歓迎

コンサート会場でのあいねの託児サービスは、ほとんど主催者からの要望だ。託児付きコンサートはキャリア20年以上のバンドの公演が多く、そうなるとファン層は30~40代の子育て世代。

主催者側の担当者によって、託児の部屋にハロウィーンの演出が施されていたり、クリスマスには小さなプレゼントが用意されていたりと、ファンであるお母さんばかりでなく「小さなお客様」も心から歓迎されている。松本さんによれば、開演前に出演アーティストが自らそっと子どもたちの様子を見に来ることもあるという。

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ライブを堪能した後、子どものお迎えに来たお父さん、お母さんからは「おかげさまでライブをあきらめなくてもよくなりました」と感謝の言葉を受けることが多い。また、リピーターになって親同士、子ども同士が友達になって「また次のライブ会場でね」と再会を楽しみに別れるシーンも見られるようだ。

あいねでは、今年もすでに日本武道館、代々木体育館、両国国技館などで開催される人気ロックバンドのコンサートや音楽イベントでの出張託児が何件も予定されている。

CDが売れない時代になって久しいが、コンサートやライブの売り上げ、入場者数、公演数などは右肩上がりが続いている。こうした託児サービスはますますニーズが高まっていきそうだ。

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