駅徒歩15分でも女性に人気のシェアオフィス

「仕事をしたいけれど、保育園に入れない」「資格取得のためにまとまった時間がほしい」「できるだけ子どものそばで仕事をしたい」……。そんなお母さんたちに支持されているシェアオフィスがある。

東京都世田谷区、馬事公苑に隣接する「マフィス」は、保育付きのシェアオフィス。東急田園都市線の用賀駅から徒歩15分と決して便利な場所ではないにもかかわらず、多くのお母さんが利用している。中には、自宅から1時間かけて通ってくるお母さんもいるという。

最近、お母さん向けのシェアオフィスやコワーキングスペースを数多く見るようになったが、マフィスはそうした施設ともちょっと違う何かがある。支持されている理由はどこにあるのか。

親子の空間を別々に

お母さん向けのシェアオフィスは、フリーランスや在宅勤務など、女性のはたらき方の多様化とともにニーズが高まり、首都圏をはじめさまざまな地域で見られるようになってきた。ところが、保育をつけるとなるとコストがかかる。そのため、多くのお母さん向けシェアオフィスは、子どもと同じ空間で仕事をするという「子連れシェアオフィス」の形を取っている。

ところが、お母さんが目に入ればお母さんのそばで一緒に遊びたいと思うのが子ども。となると、必然的に仕事に集中することは難しい。まして、食事もおむつ替えもお母さんが対応しなければならないなら、結局、自宅にいるのと何も変わらない。子どもにとっても仕事をしたいお母さんにとっても不満が募るだけだ。

一方、マフィスがこだわっているのは「仕事に集中できる空間」。保育スタッフを雇い、1階が保育エリアで2階がオフィスと、スペースを完全に分けている。幼い子どもがいてもお母さんが仕事に集中できること。これがマフィスが人気を集めている最大の理由だ。

フルタイム利用の場合は、月に2万6000円(デスク利用料)+託児料(月齢によって変わる)で利用できる

「お母さんは、ここで仕事をしてもいいし、外に出てもいい。子どもと一緒にランチに出掛けてもいいし、保育スタッフに任せてくれてもいい。お母さんのワークスタイルやライフスタイルに合わせて多様な選択肢を提供したかった」と、マフィスを運営するオクシイの代表・高田麻衣子さんは話す。

戦略的なエリア選び

保育をつけるとなれば、スタッフの人件費はかかるし、場所の要件も厳しくなる。マフィスのオープンに当たって、エリア選定と物件探しには、不動産業界で培ってきた高田さんの経験と知恵がフル活用された。

エリア選定で着目したのは、まず待機児童が多いエリアであること。子どもを保育園に預けることができず困っている人なら、マフィスを預け先の選択肢の一つにしてくれる可能性が高いからだ。

もう1点は、手取り給与から毎月4万~5万円の利用料を支払うことのできるお母さんが多くいるエリアであること。年収にして500万~1000万円くらい。共働きの世帯年収で2000万~2500万円のファミリーがいる地域だ。

固定デスクプラン、フルタイムプラン、AM・PMプランなどさまざまなプランがある

「用賀あたりの中古マンションは坪単価400万円程度。世帯年収2000万円のファミリーが購入する6000万~7000万円のマンションだと60~70㎡の2~3LDKくらいだろうと予測しました。子どもが2人いれば自宅に仕事場を設けるほどのスペースはなく、自宅外でのワークスペースを必要としている人がいるはず。こんなふうにあらゆる観点からニーズを確かめていきました」(高田さん)

高田さんは当初「駅近」も必須条件と考えていた。しかし、保育スペースを設置するなら個人所有の物件のほうが話をしやすい。再開発が進む駅周辺には、ターゲットとするファミリーは多くいるものの、条件に合う物件はなかなか見つからなかったという。

物件を探し始めて約3年。ようやく出会えたのが現在の建物だ。一面ガラス張りの窓からは、たっぷりの光と馬事公苑の豊かな緑を眺めることができ、ときどき馬が散歩する姿も見られる。子どもにとっても大人にとっても最高の環境であるばかりでなく、元は絵本美術館だったこともあって、保育についてオーナーの理解もすぐに得られた。

駅から15分と必ずしも交通の利便性はよくないが、その分、賃料はかなり抑えられたという。

子育ても仕事もどちらも

オープンは2014年12月。すぐに大きな反響があったわけではない。でも、見学に訪れた人の多くは「私のための施設ができた」と気に入ってくれたことから、高田さんも手応えを感じていた。

それから2年。現在では19席あるオフィスを月35~40人もの人が利用しており、プランや時期によっては利用待ちの人もいるほど。弁護士、税理士、ライター、翻訳家、食育スペシャリストなど幅広い職種の女性たちが利用しており、利用者同士での交流も盛んだ。

2017年4月、マフィスは、横浜に2つ目の施設をオープンする。横浜は仕事も子育てもあきらめたくないというお母さん層が見込める一方で、30代以降の女性の就業率は全国平均より低く、都心への通勤の大変さを理由にはたらくことをあきらめている人も多い。「子育ても仕事もどちらもあきらめない生き方をしてほしい」と高田さんは語る。

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