京都の絵の具店が作った、お母さんに優しいネイル

パステルシリーズ_MG_2108_1台所仕事をしているときもスマホに触れるときも、手の指先は視界に入ってくる。きちんとケアができていて、自分の好きな色やデザインのネイルアートを施した指先だと気分がいい。

だが小さな子どもがいるお母さんの中には、好きだったネイルアートをやめる人がたくさんいる。マニキュアや除光液に含まれる成分に不安があるからという人が多いようだ。

みんなをアーティストに

そんな女性たちの救世主と言えるマニキュアを作ったのは、京都市内にある日本最古の絵の具店、上羽絵惣(うえばえそう)。先代社長の長女にあたる石田結実さんが中心となり、2010年、日本画の絵付けに使う胡粉(ごふん)を原料の一部に使った「胡粉ネイル」を開発した。

胡粉は、ホタテの貝殻を元にした顔料。貝殻を十数年間も雨風にさらして不要な成分を取り除き、2週間近くかき混ぜることでキメ細かな粉の状態にする。

胡粉はホタテの貝殻が元になっている

胡粉はホタテの貝殻が元になっている

胡粉ネイルは、原料の一部に胡粉を使っており、酢酸エチルやアセトンのような有機溶剤を含んでいない。水溶性なので消毒用のアルコールで簡単に落とすことができる。軽い付け心地で通気性もいいのが特長だ。

江戸時代に創業した上羽絵惣は、これまで日本画家や日本人形の絵付け師といった特別なお客さん向けの商品を作ってきた。ただ日本画を描く人は年々少なくなり、絵の具の売り上げは先細りの一方。先代社長が倒れて石田さんが家業を手伝うことになったとき、売り上げは最盛期だったバブル期の5分の1にまで落ち込んでいたという。

通気性があり、付け心地が軽い

通気性があり、付け心地が軽い

「除光液で手が荒れるからネイルアートができない」。あるとき知人のそんな不満を聞いた石田さんははたと気づいたという。「私たちのお客さんは何も特別な人だけじゃない。つめがキャンバスだとすればみんながアーティストなんだ」(石田さん)。

天然素材である胡粉をマニキュアに転用できないか――。突拍子もない考えにも思えたが「“色を楽しみたくてもできない人”に使ってもらえる商品を作りたい、それが“色屋”の使命だと思ったんです」と石田さんは振り返る。

絵の具の売り上げを抜いた

大変だったのは、胡粉ネイルをつめにどう定着させるかという点だった。アセトン系の有機溶剤の代わりとしてベースに水を使うのだが、水溶性のマニキュアはどうしても取れやすい。石田さんは大阪の化粧品メーカーに掛け合い、1年かけてようやく透明色のマニキュアを完成させた。色付きのマニキュアは特に難しく、安定してつめに定着させられるよう配合を変えるなどして何度もチャレンジした。

10年1月に透明色6000本を発売。誰でも安心して使えるというコンセプトが共感を呼び、ほどなくしてビジネスコンテストに入賞、メディアにも取り上げられた。すると営業もしていないのに生協や百貨店などから問い合わせの電話がどんどんかかってきたという。6000本は3カ月で完売し、半年後には色付きの商品9色を投入した。

色のバリエーションは豊か

色のバリエーションは豊か

色のバリエーションは「日本人らしいボケ感のある色」(石田さん)を中心に増やしている。いちばん人気のピンク系だと、透明がかった淡い桃色の「水茜(みずあかね)」、上品にきらめく「桃真珠」、ほのかに青みがかった「紅梅白(こうばいびゃく)」など9色もある。40色ほどの通常ラインナップのほか、季節限定の色を出してお客さんを飽きさせない工夫をしている。

価格は1本1300~1500円と普通のマニキュアよりは少し高め。そのため30代の女性を中心に自分へのごほうびや贈り物としての利用が多い。子どもを持つお母さんや妊婦さんはもちろん、従来のマニキュアや除光液が苦手な人にも使われているそうだ。

パッケージにもこだわった

コンセプトを理解して置いてくれるところに卸している

胡粉ネイルは月間4万本以上を売るヒット商品となり、絵の具の売り上げを大きく抜いている。ハウスオブローゼや中川政七商店など国内外の1000カ所以上で取り扱われるようになり、公式通販サイトの登録者数は1万7000人になった。

病院の院内サロンの中にも胡粉ネイルを扱っているところがある。ある乳がん患者さんは「かつらは仕方なくつけていたけど、胡粉ネイルは違う。私は女性だったんだと思い出させてくれた」と喜んでくれたのだそう。“色屋”が間口を広げた商品は、さまざまな人に色を楽しむチャンスを与えてくれている。

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