中川政七商店が伝統工芸品をヒットさせるワケ

“伝統工芸はお年寄り向き”――そんなイメージをひっくり返すような商品を次々と生み出している会社がある。伝統工芸に現代的なデザインを取り入れた生活雑貨を扱う中川政七商店だ。

奈良の特産品である蚊帳生地を使った花ふきん、大正時代から続くブラシメーカーと開発した猪毛のヘアブラシ、静岡の地場産業である木工技術を使った裁縫箱……。伝統工芸をベースとした商品を扱っていながらも、30~40代の女性に人気がある。決してお手頃なものばかりではないのにヒット商品も多く、何カ月も入荷待ちという商品もある。

鍛冶職人のパン切り包丁

伝統工芸のような古くからある技術は日本の気候風土のなかで生み出されてきたものなので、実はとても使いやすい。「取り入れてみると使いやすさに驚くんです。でも、きっかけがないと伝統工芸を使うことってないですよね」と、中川政七商店ブランドマネージャーの石田香代さんは話す。

看板商品の一つ「パン切り包丁」も、使いやすさゆえヒットした商品だ。中川政七商店と一緒になって手掛けたのは新潟県三条市にある刃物メーカー、タダフサ。三条市は“鍛冶の町”として江戸時代から全国的に有名で、高温の金属をたたいて製造する日本古来の技術を使った「越後三条打刃物」が国の伝統的工芸品にも指定されている。

この地域には刃物を扱う企業も多く、その一つであるタダフサは漁業や農業に使う専門的な刃物を扱っていた。その高度な技術を生かしつつ、より一般の人にも使ってもらいやすくなるよう工夫した。

タダフサと一緒に企画した「基本の3本」の中でも、いちばん売れているのがパン切り用包丁。柔らかくて潰れやすいパンは切るのが難しい食材の一つ。タダフサの職人は、パン切りにも、というよりパン切りにこそ普通の包丁を使っているそうだ。

パン切り包丁の最大の特長は切れ味。柔らかいパンでも硬いパンでもすっと切れる。一般的なパン切り包丁は刃が波状になっているが、この包丁は波刃ではない。だから切り口が滑らかでパンくずもほとんど出ない。

使いやすさに加え、細部まで行き届いたシンプルなデザインが受け、1万円を超す価格にもかかわらず入荷数カ月待ちという大ヒットになった。

間口を広げたい

伝統工芸の職人たちは、切実な危機感を抱えているという。このままでは自分たちの技術が廃れてしまう、このままでは食べていけなくなる――。「だからこそ、昔から作ってきたものの延長線上で技術を転用することが必要なのです」と石田さんは言う。

伝統技術の転用をお手伝いすることで、中川政七商店はたくさんの人気商品を生み出してきた。「食洗機で洗える漆椀」もその一つ。漆を使った器はとても美しいけれど、耐熱性が低く、繊細な装飾があって、一般家庭で使うにはハードルが高い。

江戸時代に創業した福井県鯖江市の漆琳堂が、初代より200年以上続いてきた塗師家を守り続けるために職人の技術を生かして開発したのが、高い熱や水圧に耐えられる丈夫な本漆。内部が高温になる食洗機でも使えるので、天然本漆の風格を家庭で楽しめると好評だ。

中川政七商店の商品開発スタッフは、常日頃から伝統工芸の職人が当たり前だと思うことを、素人目線で問い直してみるのだという。社員たちにサンプルを配り、率直な声を求めるケースも多い。昔気質の職人であってもあくまで本質を残しながら企画すれば心を開いてくれるのだという。

ウリを端的に伝えるPOP

店では、商品のストーリーがより伝わりやすいよう、専門スタッフの指示のもと細部まで工夫したディスプレー作りをしている。夏なら線香花火など、商品以外の小物も置いて季節感を出し、雰囲気を盛り上げる。いつ来ても新鮮な気持ちになってもらえるよう、ディスプレーは2週間ごとにガラッと入れ替えているそうだ。

商品に添えるPOPにも力を入れている。伝統工芸ならではの持ち味を、心をひきつけるストーリーとともにつづり、多くのスタッフの手で1枚1枚丁寧に作る。

「いいところを全部書いてしまうと埋もれてしまうので、いちばんのウリを端的に伝えることを意識しています」(石田さん)。土鍋なら「『グッとつかみやすく』扱いやすい」ことをPRしたり、産地や生産者の思いを伝えたり。POPからお客さんとの会話が生まれることもあるという。

伝統工芸と日常とを結びつける中川政七商店。店をふらっと訪れるだけで、日々の生活に伝統工芸を取り入れることにもなりそうだ。

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