シェフ大注目のヨーロッパ野菜は埼玉県産だった

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スティッキオ、カーボロネロ、セルバーティカ――これらはすべて、イタリアやフランスで栽培される「ヨーロッパ野菜」の名前。あまり耳慣れないが、日本では主にレストランで使われていて、そのほとんどが輸入されたものだ。

ところが今、埼玉県さいたま市の畑でこのヨーロッパ野菜の栽培が広がりつつあるという。しかも、ここで収穫されたものはイタリアンやフレンチのシェフからの指名買いが多く、現在、県内は1000軒以上、都内も有名ホテル内のお店を始めとして120軒以上もの飲食店で採用されている。

いったいなぜ、この地でヨーロッパ野菜が作られるようになったのだろう。

国内では貴重品

さいたま市にあるイタリアンレストラン「トラットリア アズーリ」の料理長・新妻直也さんも指名買いをする一人。「ずっとイタリア野菜を使いたかった」という。

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実は、ヨーロッパ野菜は手に入れるのがとても難しい。国内の流通量はかなり少なく、種類もあまり選べず、輸入品なので鮮度は低い。おまけに空輸代にコストがかかるため高価で、国産野菜の5~10倍の値がつくこともある。

だからシェフたちは、国産の一般野菜で代用することも多い。たとえば「貝類と菜の花のパスタ」は、本来は菜の花ではなくイタリア野菜のチーマ・ディ・ラーパを使う。日本の菜の花と仲間ではあるけれど、苦みや甘みなど味わいは微妙に違う。素材にこだわるシェフなら当然、この状況にフラストレーションがたまっていく。

地産地消を狙って

こうしたシェフたちの悩みを受け、生産者との橋渡し役となったのが行政だった。実はさいたま市は、イタリアンとフレンチだけでも200軒以上とレストランが多いエリア。この地でヨーロッパ野菜を栽培すれば地産地消を促せるのではないか――こうした趣旨のもと、さいたま市が音頭をとる形で、2013年春、生産者、種苗会社、卸売業者、レストラン、大学などのメンバーで「さいたまヨーロッパ野菜研究会」が結成された。

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生産を担うのは20~40歳代の若手農家たち。皆、岩槻区を中心に江戸時代から続く農家の後継ぎだ。岩槻区界隈は小松菜やネギなど葉物栽培が盛んだが、今やこうした一般野菜の生産は全国に広がりなかなか利益にならない。それに生産物は主に農協へ出荷されるので、生産者に価格決定権はない。直売で取引することもあるが、結局は市場相場に左右されるという。

こうした中、市場を通さないので自分たちで価格を決められるうえ、ヨーロッパ野菜という高付加価値で販路が決まっている野菜なら高収益が望める。そう期待をかけて挑戦を決めたという。

レストランニーズに特化

売り上げは順調に伸び、2015年の年間共同出荷額は3000万円を超えた。2016年4月には生産者11人が「農事組合法人FENNEL(フェンネル)」を設立。法人化したことで大手企業との取引も増え、生産が追い付かないほどだという。

これほど成功したのは、販路先であるレストランのニーズに寄り添っていることが大きい。「もっと小さいサイズで」「スライサーを使うときに持ちやすいよう根を残して」など、シェフの要望に合わせて出荷している。

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新鮮さも大切にしている。農家は通常、一度にまとめて野菜を作って売るが、フェンネルの生産者は安定的に届けるため毎日種まきを行う。それに配送はスピーディ。週に3~4日、卸業者が野菜を取りに来て、翌日にはレストランに届けてくれる。だからシェフたちは、安定して鮮度が高い野菜を使えるのだ。

農家にもメリットがある。新鮮なので価値が高くなり、輸入ものに近い値付けができるのだ。でも、値付けはレストラン側が計画を立てやすいようシーズンの始めに決め、収穫量にかかわらず同じ価格で売るシステムにしている。

結婚式場も注目

今でこそ順調だが、当初は失敗続きだった。ヨーロッパ野菜は高温多湿に弱い。日本の気候向けに品種改良した種を使ってはいるものの、猛暑や台風に襲われ、芽が出ない、伸びないという日々が続いた。

シェフや種苗会社にアドバイスをもらいながら試行錯誤を繰り返すうち、シェフや本場イタリアの料理講師も太鼓判を押すほど味がよい野菜ができるようになった。フェンネル代表理事の小澤祥記さんは、「一人ではできなかった」と話す。年間約50品目も出荷できるようになったのは、栽培方法をアドバイスし合える仲間がいたからだという。これだけ多くの品目を出荷できる産地はほかにない。

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すべてヨーロッパ野菜にシフトしたメンバーもいるが、一般野菜とヨーロッパ野菜を作る割合はそれぞれ。個々のペースで生産できるのも、複数人体制だからこそ。協力しあってレストラン向けの畑見学会を開いたり、2015年からは野菜ごとに責任者をつけ、出荷基準を設けるなど品質管理にも取り組んでいる。

彩りもよく実は栄養価も高いヨーロッパ野菜。最近では、中華や和食のシェフ、結婚式場の関係者を始め、「産後のお祝い御膳に」と注目する産婦人科も増えているという。一般の人は、通販サイト「フードバリュープロ」やレストラン「トラットリア アズーリ」、伊勢丹浦和店の青果売り場で買うことができる。ブランド野菜としても地産地消モデルとしても、ヨーロッパ野菜は今後ますます注目されそうだ。

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