ものづくり企業のおもちゃが創造力を育む


子どもたちが何やら手元のおもちゃに夢中になっている。それは、さまざまな形状のパイプとジョイントパーツを組み合わせて立体的な形を作るパズルのようなもの。シンプルに見えるけれどなかなか奥深い。子どもの隣で一緒に夢中になって遊んでいるお父さんもいた。

ここは、東京・お台場の「アネビートリムパーク」。幼児教育の先進国であるヨーロッパの遊具を数多く備えた室内遊び場。約1600㎡の空間に、子どもたちが思い切り遊び、それを通して多くの学びが得られるよう、大型アスレチックやゴーカートコースのほか、たくさんのおもちゃが用意されている。親子で一緒に組み立てられるログハウスなどもあり、子どもも大人も楽しめるのが特徴だ。

アネビートリムパークお台場店ようす

アネビートリムパークお台場店

冒頭のパイプのおもちゃもこの遊び場の一画に用意されたもの。こちらもヨーロッパからの輸入玩具なのかと思いきや、そうではなかった。

パイプ加工の会社が作ったおもちゃ

このおもちゃは「パイプグラム」。作っているのは1951年創業のパイプ曲げ・板金加工メーカー「武州工業」(東京都青梅市)。自動車用の熱交換器用パイプを国内外の名だたるメーカーに供給し、医療機器の分野などにも進出している。ものづくりの優良企業だ。

そんな会社がなぜおもちゃづくりを始めたのだろう。

きっかけは、2013年、中小企業の技術とデザインのマッチングを図るという東京都主催のコンペに参加したこと。ここでデザイナーの小関隆一さんから出された「美しく曲げられたパイプをつなぐ、大人も遊べる知育玩具を作ろう」という提案に同社が共感したのだという。

技術を強みに持つものづくりの優良企業

技術を強みに持つものづくりの優良企業

武州工業の取締役・林英徳さんは「自分たちの技術を使って、子どもたちが手を使って遊ぶおもちゃを作る。それはとても意味のあることだと思ったんです」と振り返る。

どう売るかがわからない

しかし何もかもうまくいったわけではない。2014年に売り出した「ベーシックセット」は、最も手頃な商品でも価格は5000円台から。興味を持っても「子どもがずっと遊ぶおもちゃだろうか?」と迷う親が多く、すんなり買ってはもらえなかった。また、まったく畑違いの分野だっただけに、どう売っていけばいいのかわからない。展示会に出しても素通りするバイヤーばかりだったという。

知名度もなかなか上がらない中、あるとき、従業員の一人が自分の子どもが通う保育園にパイプグラムを紹介した。すると、すぐ取り入れたい、と問い合わせがあった。納入後に保育園を訪ねた林さんに、先生がこう言った。

「少ない本数で形を作れるパイプグラムは子どもにとっても新鮮。アウトラインで表現できるものって、世の中にそうそうないわよ。そのうちきっと『これいいね』という人が増えるはず」

大きく励まされた林さんだったが、この言葉はやがて本当のことになる。2015年に導入版として「パイプグラム・ミニ」(2980円)を発売したところ、より手軽に手にしてもらえるようになった。

そして2016年2月、ある展示会でアネビートリムパークの担当者に出会う。そこで話が進んで、遊び場に置いてもらえることになった。

アネビートリムパークには毎日多くの親子が訪れる

アネビートリムパークには毎日多くの親子が訪れる

アネビートリムパークは約6万5000人もの会員を抱え、お台場店と東京都西多摩郡にある「アネビートリムパークラボ」に毎日たくさんの親子が訪れる。このことで、たくさんの親子がパイプグラムに触れる機会が増え、その魅力に気づくようになってきたのだ。

教育現場にも広がる

東京・銀座の博品館でも取り扱いが始まり、「メード・イン・ジャパンのおもちゃが欲しい」という外国人観光客のニーズにマッチした。売り上げは増加の一途をたどっている。「いいものを求めたいという消費者意識の変化もあり『これおもしろいね』と言われることが増えてきました」(林さん)。

次の展開は、立体図形を勉強するための教材としての使い方だ。実際、岩手大学教育学研究科の立花正男教授のもとで、パイプグラムを活用して空間概念を育てる指導について研究が進められている。

大学生を対象にした調査では、パイプグラムで勉強すると理解度が高まる、というデータもあり、実際に岩手県内の中学校21校に配られることになった。林さんは「今はタブレットなどで立体図形を理解させるアプリもありますが、自分で組み立てるからこそ形の成り立ちがわかり、目からの情報だけでなく五感として頭に理解できるんです」と話し、いつかはすべての子どもたちが授業で一つずつパイプグラムを手にするのを目標にしている。

「最初の打ち合わせの時、デザイナーさんが、パイプグラムという単語を動詞にしようと言ってくれました。子どもたちはレゴブロックなら“レゴしよう”って言うでしょ?  それと同じように“パイプグラムしよう”という感じ。これが僕らの夢なんです」(林さん)

これからは海外市場への進出ももくろむ。「東京でオリンピックが開かれる時には、『メード・イン・東京』のおもちゃとしてパイプグラムがお土産売り場に置いてもらえるようになったらいいですね」(林さん)。

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