おなかの赤ちゃんに病気が見つかったとき

Photo by MARIA

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産婦人科医として日々「命」の現場に向き合ううちに、私はあるもどかしい思いを抱えるようになった。それは、おなかの赤ちゃんに病気が見つかったときのことだ。

産婦人科で診るのは出産までで、赤ちゃんが生まれた後のことは、新生児科や小児科にバトンタッチしなければならない。だから、お母さんのおなかの中にいる赤ちゃんに病気が見つかったとしても、その病気を抱えた子どもがどのように成長していくのかを知る機会はなかなかない。

もちろん、医学書に書いてあるような病気の原因や症状、治療法などは説明することはできる。でも、「生まれつき病気のある子どもをこの先どうやって育てていいのか」と大きな不安を抱いているご家族が知りたいのは、決してそれだけではないことは明らかだった。

さまざまな人と話すうちに、患者さんやその家族にとっては、医師の言葉よりも同じ病気の患者さんやその家族と接するほうが得るものが多いということに気づいた。そして、病気を抱えて生まれた赤ちゃんを持つ家族から多く聞かれるのは、「同じような病気を持つ子を育てている家族に会いたい」という言葉だった。

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医療者の想像をはるかに超えた次元において、同じような状況に置かれた人同士でしか理解し合えない感情があるのだろうと思う。

そんなことがきっかけになって、私は病気や障がいをキーワードにしたマッチングサービスを開発しようと思い立った。現在、NPO法人「親子の未来を支える会」では、インターネットを通じて家族同士が匿名で出会える仕組みを運営している。

おなかの中で治療する

実は「親子の未来を支える会」では、もう一つ取り組みたいと考えていることがある。それは、お母さんのおなかの中で病気が見つかった赤ちゃんに「胎児医療」という選択肢を提示することだ。

胎児医療という言葉は、まだあまりなじみがないかもしれないけれど、生まれる前の命に対する医療のこと。生物学的には、若ければ若いほど自己治癒能力が高いとされていて、生まれた後よりも妊娠中に治療をしたほうが高い効果が出やすい病気がある。

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たとえば、胎盤を共有している双子の血流バランスが崩れる「双胎間輸血症候群」という病気が見つかった場合、まだおなかの中にいる間にレーザーで双子の血管のつながりを切るという治療が行われる。また、早産の可能性がある場合に、赤ちゃんの肺の成熟を促すため、ステロイドの投与を行う治療も日本では広く行われている。

実は、欧米ではもっといろいろな胎児医療がされていて、たとえばつい先日も、米テキサス州の小児病院でこんな手術が行われた。それは、超音波検査で腫瘍が見つかったおなかの赤ちゃんを、妊娠23週でいったんおなかから取り出し、腫瘍を取り除く手術を行い、再びおなかの中に戻すというもの。赤ちゃんはその後順調に成長し、それから12週間後に無事生まれた。腫瘍をそのままに妊娠を続けていたら、赤ちゃんは助からなかったかもしれない。

生まれる前の命にも医療を

このように、生まれる前の命をも医療の対象として、治療を行うのが胎児医療の考え方。そして、治療のみならず欧米では「予防」という面でもさまざまな取り組みがされている。

たとえば、生まれつき脊髄に病気を持つ「二分脊椎」という病気がある。この病気は、お母さんが「葉酸」を摂取することで多くが予防できるため、米国では日常の食事で必要な量が摂取できるようパンやシリアルなどに葉酸を添加することが義務づけられている。英国では、妊婦さんが薬局で葉酸のサプリメントを無料でもらうことができる。

日本でも、厚生労働省や学会から、葉酸をとることが推奨はされてはいる。でも、実際に葉酸をとるかどうかは妊婦さんそれぞれの自己判断に任されており、いまだにその必要性を十分に理解している妊婦さんは少ないように思う。日本ではこの20年間、二分脊椎の病気をもって生まれてくる赤ちゃんが増えているにもかかわらず、だ。

また、妊娠中に二分脊椎と診断されたときにも、海外では妊娠中に手術を受けるという選択肢もある。お母さんのおなかの中にいる10カ月の間に、赤ちゃんの脊髄損傷が進んでしまうからだ。

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現在私は、英ロンドンの病院で胎児医療の研修を積んでいる。英国は、日本よりも胎児医療が普及しているだけでなく、病気や障がいを持った子どもを生み育てるための社会的理解や福祉も進んでいる。胎児の病気を理由とした人工妊娠中絶に関してもきちんとした指針があり、選択肢として提示もしている。

次回は、ロンドンからその最先端をお伝えしたいと思う。

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