なぜ日本では赤ちゃんの液体ミルクが買えない?

Photo by MARIA

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泣いている赤ちゃんを気に掛けながらも、眠い目をこすりながらキッチンでお湯を沸かし冷まして……。赤ちゃんを持つお母さんならこんないたたまれない夜を経験したことがあるかもしれない。

そんなお母さんの救世主になるかもしれないのが、赤ちゃん用の「液体ミルク」。東日本大震災のときフィンランドに住む日本人のお母さんたちが被災地に救援物資として送ってくれたことでも有名になった。PETボトルや紙パックに入っていて、乳首をつけたり哺乳瓶に移し替えたりすればすぐに飲ませられる手軽で便利な商品だ。

粉ミルクより安全性が高い

粉ミルクのようにお湯を使って調乳しなくていいので、ミルクを作る時間や出掛けるときの荷物が減らせる。夫や周囲の人にも手伝ってもらいやすい。災害などでお湯が沸かせないときも清潔なミルクをすぐに飲ませることができるなどいいことづくめだ。

海外では、液体ミルクはとてもポピュラー。液体より値段の安い粉ミルクのほうが主流だが、ヨーロッパをはじめ多くの国では液体ミルクが粉ミルクと同じように店で売られている。フィンランドでは、流通している赤ちゃん用ミルクの9割が液体ミルク。WHOによると、感染リスクのある乳児には、無菌充填される液体ミルクのほうが粉ミルクより安全性が高いのだそう。

海外ではよく見掛ける液体ミルク

海外では液体ミルクはポピュラーな存在だ

ところが日本では個人輸入以外に手に入れる方法はない。理由はいくつかある。

赤ちゃん用のミルクは厚生労働省の「乳等省令」でその定義が決まっていて、その中には「粉ミルク」という文言しかない。まずはこの法令を改正し、「液体ミルク」という文言を入れなければならない。

さらに粉ミルクは「乳児用調整粉乳」として「特別用途食品」に認定されている。表記の問題だけなので「乳製品」として流通させるならいいのだが、そうなると赤ちゃんに必要な栄養素や安全性をクリアしているかどうかまでは担保されない。こちらは消費者庁がかかわる問題。

それなら、「海外で流通している乳児用液体ミルクを輸入して、どこかの企業が販売してくれれば解決するのでは?」と思うけれど、これまた壁がある。ここ最近で新たにわかった母乳の成分で海外製の液体ミルクに添加されているけれど、日本ではまだ食品添加物として認可されていない成分があるこんな状況だから、企業もそのまま輸入して売るということができない。

液体ミルクの値段は5倍?

そんな中、いち早くこの液体ミルクの必要性に気づき、アクションを起こしたのは、乳児用液体ミルク研究会の末永恵理さん。

末永さんは現在2歳児の育児まっただ中。第1子妊娠中に液体ミルクを知り、2年前から賛同してくれる人の署名をインターネット上で集め始めた。

「母乳でいいのでは?という心ない声を聞くこともありますが、災害やストレスなどで母乳が止まったり、赤ちゃんが飲みたいと思う量が十分出ない人だっている。液体ミルクの必要性を幅広い人たちに知ってもらいたい」(末永さん)。熊本地震のとき、支援物資としてフィンランドから液体ミルクが届けられたことが報道されると、1万2000件ほどだった署名が一気に4万件を超えた。

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粉ミルクのメーカーが名を連ねている日本乳業協会も09年、国に「液体ミルク」を作って販売したいと申し立てをしている。新しい市場を開拓しようとしたのだが、「乳等省令」を改定するために液体ミルクを試作しようとしたところでつまずいてしまったのだそう。

その理由は、金額と品質と技術の問題。粉ミルクは1回分200mlでだいたい60〜80円だが、いま日本で液体ミルクを作ろうとすると300円くらいになるらしい。賞味期限も、粉ミルクの1年に対して液体ミルクは5カ月~1年ほど。店頭に置いてもらえる期間を考えると、かなり短いサイクルになってしまう。海外の液体ミルクは品質に問題のない範囲で茶色っぽくなったり沈殿物があったりするが、日本人にはそのままで通用するとは思えないので、品質を保つ技術も必要になる。

災害への備えにもなる

このまま何年も法改正や商品開発を待つしか方法はないのだろうか?

お母さんにできることはある

乳首をつければすぐに飲ませられる便利な液体ミルク。お母さんたちの声を届けることには意味がある

末永さんは「たとえば特区を作ってもらって海外製の液体ミルクを販売してみたり、災害用に備蓄してみたりするなど方法はあるはず」と話す。赤ちゃんはとても“コンサバ”。災害のとき急に飲まそうとしても嫌がる可能性があるから普段から飲ませておくに越したことはない。

末永さんらが集めているアンケートではお母さんたちの切実な声が聞かれる。「粉ミルクを使っている人だけでなく、母乳だけで育てている人も液体ミルクをすごく気にしているんです。赤ちゃんの命の源が自分の体だけというのは怖いですから」(末永さん)。

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ようやく国でも議論が始まるまでになったが、まだまだ道半ば。安心してすべてのお母さんと赤ちゃんが「液体ミルク」という選択肢を持てるようになるには、お母さんたちの声を届ける必要がありそうだ。

乳児用液体ミルクについての署名

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