安心でおいしい「無酸処理」ののりが希少な理由

Photo by Hideji Umetani

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のりは、日本の食卓には欠かせない存在だ。わが家の3歳になる息子は食が細く、ご飯がついつい残りがちだが、のり巻きにすればあっという間に完食してくれる。

いま日本で流通しているのりは、年間だいたい80億枚(全国漁連のり事業推進協議会)。そのほとんどが、養殖によって生産され、酸を使って処理されている。

コンビニおにぎり=酸処理

ノリの養殖はたいへんな作業。支柱と柵を使った昔ながらの養殖方法では、海底に支柱を立てて、ノリを付けて成長させるための網を海水の表面に浮かぶように設置する。干潮時には水面から網が顔を出すので、ノリを数時間日光浴させる。

ノリの健やかな成長には、海水の栄養分と太陽の恵みが欠かせないが、潮の満ち引きに応じて毎日装置の高さを調節するのはとても手間がかかる。また、海から上がって天日干しをしている間はのりが成長しないため、効率的な生産はできない。

Photo by Hideji Umetani

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天候に左右されやすく手間のかかる作業を少なくしようと、導入されたのが「酸処理」。酸は病原菌に強いので、酸性の液に海苔の養殖網を浸すことで、赤ぐされ(カビ病)などの病気を予防できる。

酸処理をするとアオサや珪藻類(藻の一種)の汚れがつかないので、海水に網を浸けたままにしておけるようになった。そして、病気に強く見た目のよいノリがたくさん生産できるようにもなった。コンビニのおにぎりやスーパーで売っているのりのほとんどが、酸処理を行って生産されたのりだ。

ただ、この処理方法には問題もある。自然界で分解されやすい有機酸だけでなく、安価なリン酸や塩酸などの無機酸が使われ、かつ回収処理せずに海に流せば海水が汚染される。環境への問題だけでなく、酸によって、のりが持つ本来の味や香りが損なわれるとも言われる。

量は少なくても安心

そんな中、酸を使った処理をせず、昔ながらの方法でノリを養殖している産地がわずかながらある。そのうちの一つが、鹿児島県出水(いずみ)市。「安心安全なのりを届けたい」と、「海苔のこたに」代表の谷口俊朗さんは話す。

ひと組が生産できるのりの量は、年間50~60万枚

ひと組が生産できるのりの量は、年間50万~60万枚

ノリの養殖は、海水温が25℃以下になってから始まる。10月初めから11月の間に海の上に棒を置き、棒と棒の間に養殖網を張って、網目にノリの「種つけ」をしていく。そして養殖期の12月から3月までに2回、多くて3回、ノリを摘む。

出水市では8組の夫婦がのりを生産している。ひと組が生産できるのりの量は、年間50万~60万枚。年間約80億枚と言われる国内市場規模からすると、微々たるものだ。

養殖網をずっと海に浸けていられる「酸処理」だと、1人で年間1000万枚以上作ることもできるのだそう。ケタが二つ違う。酸処理をするとアオサなど余計なモノがつかないので、20~30cmまで成長させても見栄えよく作ることができる。

無産処理だと風味が損なわれづらい

無酸処理だと風味が損なわれづらい

とはいえ、「長く成長させるよりも、5cmくらいの短さで摘んだほうが香りもあっておいしいのです」と谷口さん。無酸処理では短いときに摘むので、収穫量は少ないが、おいしく安全なのりができる。酸処理では養殖期間中に数十回も海苔を摘むが、無酸処理だと2回、多くても3回しか摘まない。

宣伝はしない

手間がかかり収穫量も少ないが、できれば毎日食べてもらいたい。その思いから、なるべく宣伝費をかけずに地元スーパーや全国の自然食を扱うお店など限られたところに卸しているという。通販は行っていないが、連絡をすれば送料負担で配送もしてくれるそうだ。

ちなみに「海苔のこたに」の商品には、パッケージに「無酸処理」と書いているのだが、出水の海苔の他のパッケージには「無酸処理」と表示していないものが多いそう。自分が食べているのりの処理方法について気になったら、メーカーに問い合わせてみるのもいいかもしれない。

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成長期の子どもをもつ母親にとって、食材選びは毎日の大切な仕事。価格や栄養価、調理の手軽さ……どこに優先順位を置くかは人それぞれ。でも、今より少し意識して食材のことを知るだけで、よりおいしく安全な食事を家族に提供できるようになれそうだ。(みらいハウス・榎本理弥子 中井川真理子)

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