だしパックで有名な「茅乃舎」が大ヒットした理由


水から1~2分煮出すだけで本格的なだしがとれる茅乃舎だし。「正直、こんなに売れるとは思っていませんでした」。「茅乃舎」を展開する、久原本家グループ(福岡県糟屋郡久山町)の齊藤珠美さんは話す。ブランド創業時から、売り上げは順調に伸びているという。

茅乃舎は、“だしパックブーム”の火付け役ともいわれる。筆者は長らく茅乃舎のだしパックにお世話になっているが、ママ友から「私も使ってる!」と聞く機会が年々増えている。

「30袋入り1944円」でも売れる

茅乃舎の店はいつもお客さんでにぎわっている。特に休日は、会計待ちに長蛇の列ができている。ファンの多くはズバリ女性。店だと40歳代、通販だと50~60歳代がメインなのだそう。

売れ筋は、定番の「だしパック」だという。いちばん人気は、焼きあごをはじめ5種類の国産素材を使った「茅乃舎だし」。「アレンジしやすいから」という理由で、茅乃舎だしの減塩タイプも人気。野菜を粉末・みじん切りにしたコンソメ風の「野菜だし」や、みそ汁にぴったりの「煮干しだし」も好評だ。ほかにも今はウェブ限定の「鶏だし」など、だしパックのラインナップは8種類ある。

減塩タイプも人気

減塩タイプも人気

ただ、価格は決して安くはない。たとえば「茅乃舎だし」は30袋入りで1944円。スーパーに行けば、同じくらいの容量のだしパックが1000円以下で買える。そもそも、だしパック自体は昔からあったし、茅乃舎ではないブランドもたくさんある。こうした中、なぜ茅乃舎のだしパックは人気になったのだろう。

時間がなくてもよい食材を

久原本家は、昔ながらのよいものを単にそのまま伝えるのではなく、時代の流れとともに変わるライフスタイルや悩みに寄り添う形で商品やサービスを届けることを大事にしている。

茅乃舎ブランドは、こうした思いが貫かれているのはもちろん、イタリアの「スローフード運動」も影響しているそう。15年ほど前、社長の河邉哲司さんが「スローフード運動」に感銘を受けたことから、「地域の食材や食の知恵を後世に伝える」という考えが、強く投影されているとのだという。

茅乃舎のだしパックは、こうしたブランドの思いがまさに表現された商品。日本各地の厳選された原料を使っていて、化学調味料や保存料は入っていない。そして、手軽にだしが取れるパック状の形態は、「本当は料理に手間はかけたいが、忙しくてできない」というジレンマに悩む主婦たちの思いにも寄り添っている。「現代ならではのライフスタイルにうまくはまったのではないでしょうか」(齊藤さん)。

「手間はかけられないけれどよいものを」という主婦の思いに寄り添う

「手間はかけられないがよいものを」という主婦の思いに寄り添う

久原本家はもともと醤油蔵だった。今から120年近く前、明治26年(1893年)に創業し、40年ほど前からはタレやスープといった加工調味料も作り始めた。当時から素材にこだわった商品やユニークな商品が多かったが、その分説明を必要とするので、スーパーの棚に並べるだけでは売れにくい。商品のよさや使い方をきちんと伝えるためには自社ブランドが必要なのでは――。

こうした経緯もあり、2005年に茅乃舎は生まれた。地元の食材を守り食文化を伝えるために構えた「レストラン茅乃舎」(福岡)がブランドの顔に。商品は、「リピートできるものを」という理由から、毎日使えるだしパックを中心に展開していくことになった。

レストランも茅乃舎の大切な顔

東京ミッドタウン店併設のイートイン、「茅乃舎 汁や」

口コミで人気は瞬く間に広がった。六本木のミッドタウンから熱烈なラブコールを受け、10年には東京1号店をオープン。店でたくさん売るというよりも、通販を使ってくれる人に味見をしてもらう場にしたかったので、店にはキッチンスペースを作った。このこだわりは当たり、1号店のオープンでファンはさらに増えた。それ以来、キッチンを置けるかどうかが、最大の出店基準になっている。

現在、店は全国に20店ある。「店があることで、お客様の声がビビッドに商品開発部門に届く」(齊藤さん)そうで、商品の数はブランド創業時の19点から、現在約200点まで増えた。「ご飯の素」や「茅乃舎つゆ」など、今や人気商品はだしパックだけではない(ちなみに筆者は「煎り酒」と「鍋の素」のリピーター)。どの開発担当者もそれぞれの商品に愛着がありすぎて、なかなか廃盤にできないのが悩みの一つらしい。

広告は社内メンバーが作る

茅乃舎が成功した理由は、独自のクリエーティブスタイルにもあるだろう。

実は、ブランドが誕生したときから、店の商品紹介POPやカタログ、レシピ本、パッケージ、メルマガなどは、基本的には外注せずに社内のメンバーで作っている。商品や作り手の思いをよく知る社内の人間が手掛けることにより、トーンがぶれることなくブランドイメージを作り出せるからだ。

媒体ごとにブランドイメージが変わらないことはもちろん、上質を感じさせる色使いやデザインを重視しているそう。そのため、ホームページを制作会社と一緒に作る場合なども、ディレクションのほとんどを社内のメンバーが行っている。

デザインは基本的に社内スタッフが行う

POPやレシピ本も社内で考える

広告もたくさん打つのではなく、厳選している。それは、やはり口コミで人気が広がったブランドであり、贈り物として使われることも多いから。「お客様が茅乃舎に対して持っている“特別感”を大切にしたいから」と、齊藤さんは話す。

商品作りはもちろん、商品のよさを伝える方法にも独自にこだわり続けてきた茅乃舎。だが意外なことに、正式にマーケティングの部門ができたのはここ3年のことだそう。社内メンバーがためてきたノウハウは、専門の部門ができたことで今後どう進化していくのだろうか。いち消費者としてもとても楽しみだ。

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