珪藻土グッズのヒットを支える“主婦左官”

優しい風合いのバスマット

優しい風合いのバスマット

一見して、「これは石?」と思ってしまいそうな、優しい風合いのバスマット。実は、石ではなくて土。化石化したプランクトンの堆積物、珪藻土(けいそうど)でできている。成形には、左官の技術を使っているという本格派だ。

このバスマットを作っているのは、石川県金沢市にある「soil」という会社。江戸時代に創業、地元・金沢で左官業を営んできた会社「イスルギ」の一事業だったが、売り上げが大きくなり、昨年独立した。

soilのバスマットは、30センチ×50センチというよくあるサイズで7500円。バスマットにしては少々高いが、珪藻土の持つ吸水性や、洗濯がいらない便利さが受けて大ヒット。昨年の1年間で、12万4000枚を売り上げた。

歯ブラシ立てやティッシュボックスも展開

歯ブラシ立てやティッシュボックスも展開

珪藻土には湿度を調整する力もある。

たとえば調味料入れのふたに珪藻土を使えば、中に入れた塩はさらさらに保てる。珪藻土のよさを生かし、茶さじや歯ブラシ立て、コースター、板チョコ型の乾燥剤など約35アイテムを展開。注文から3~4カ月待ちという人気のアイテムもある。

月30万円稼ぐ人も

珪藻土を使ったこれらのアイテムは、一部を除き、“左官”による手作り。soilには約70人の“左官”がいて、なんと全員が女性だ。20~40代の主婦が中心で、うち8割が子育て中。左官という言葉からイメージするのは体格のいい男性だけれど、いったいなぜ全員が女性、それも子育て中の人ばかりなのだろう。

本来、左官は、専用のコテを使って土やセメントで壁や床を塗り上げるのが仕事。ときには歴史的建造物の修復にもかかわる。最低でも3年、独り立ちするには10年の修業が必要と言われる技能職だ。

左官が使う「コテ」

左官が使うコテ

ただ、“10年”は、あらゆる材料の扱いに長け、さまざまな技術を習得するのに必要な時間。珪藻土を使ったアイテムを作るのにももちろん技術は要るが、「プロの左官に求められるほどオールマイティでなくていい」とsoilの社長、石動(いするぎ)博一さんは考えた。

商品が売れ始めた頃、石動さんは試しに5人をパートとして雇い、左官の技術を教えてみた。すると、人によって向き不向きはあったものの、2カ月もすれば立派に商品づくりを任せられるまでになった。商品に求められる繊細さや、同じ商品をコツコツと高い品質で作り続けるという仕事の特性からすれば、男性よりも女性のほうが向いていた。

女性のほうが向いているという

きめ細やかさが必要な作業には女性が向いているという

人によって技術や仕上げのスピードに差があるので、給料は歩合制に。いちばん簡単なアイテムだと1個当たりの作業料は65円。茶さじやティッシュボックスのような複雑な形だと1個当たり1000円近くになる。“左官”の主婦たちは、平均で一人当たり月20万円くらいを稼ぎ、中には30万円近く稼ぐつわものもいるそうだ。

歩合制なので、はたらく時間は決められていない。朝8時に来る人もいれば、日中の4~5時間だけはたらく人もいる。子どもを学校に送り出してから朝10時ごろに作業場に着き、夕飯の支度をするため午後3時ごろに帰る、というパターンも多い。家事をこなしながら無理なく続けられる仕事だ。

バスマット

バスマットの表面をコテで整える

子どもの急な発熱で、仕事を休まなければならないこともある。でもsoilでは「今月はこのアイテムをこの量で」と事前に決めているから、休んでも別の日に頑張って挽回すればいい。会社としても、商品が納期に間に合いさえすればいいので、一日や二日の急な欠勤は気にしていない。

求められるプロの品質

とはいえ、気楽な仕事、というわけでは決してない。本来はプロの左官が行う作業だから、求められる品質はとても高い。気泡が入ったり傷がついたりすると、検品時に「不良品」としてはじかれる。自分の作ったアイテムがはじかれると、悔しくて涙する人もいるという。

材料の配合は、季節や水の温度に応じて変えなければいけない。材料が乾きやすい夏場だと、早く乾きすぎるのを避けるため水を多くする。指導担当の左官に聞けばアドバイスはもらえるが、基本的には一人ひとりの感覚にゆだねられる。

珪藻土

材料の配合を決めるには“職人の目”が必要

型に材料を入れてから乾ききるまでには4時間ほどかかり、その間に空気を抜いたり、成形のためにコテで押さえたりという作業がある。コテで押さえる時間が5分ずれるだけで台無しになることもあるというから、状態を見極める“職人の目”が必要。「口で伝えるのはなかなか難しく、失敗しながら体で覚えていくしかない」(石黒さん)。

作業場はつねに美しく整理整頓されている。その日の作業が終わると型をきれいに洗い、次の日に作業しやすいよう段取りをしておく。現場をきれいにして帰ることも、プロの左官なら意識して実行していることだ。

人気のアイテム、茶さじは作るのが難しい

人気のアイテム、茶さじは作るのに技術が必要

soilの売り上げは、今や年間7億円。粗利は25パーセント。人気のアイテムは月に1万個以上出荷するとあって、“左官”の皆さんは毎日大忙しだ。バスマットは類似品が出まわって売れゆきが鈍っているというが、作るのが難しいそのほかのアイテムには競合がいない。新しく「店に並べたい」という要望に今は応えられないほど。

左官の技術を伝承しながら、子育て中のお母さんの手を借りる。古くからある技術と新しいはたらき方が、soilのヒットを支えている。

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