情熱を「やり抜く力」に変えるには

5児の母であり医師・研究者である吉田穂波さんのブックコラム。今回は、コツコツと努力を重ねる力が成功者を決めると説いた本『やり抜く力 GRIT(グリット)』を読んだ感想を、吉田さんのご経験に照らしてつづっていただきます。

きっと多くの人は、仕事であれ子育てであれ、「成功のカギは、やり抜く力」と言われたら、もちろんその通りだと感じるのではないだろうか。でも、それが難しい。なぜって、子育て中の私たちは毎日が予想外の出来事や中断に満ちているのだから。

Photo by MARIA

本のタイトルにもなっている「GRIT」は、一つのことに興味を持ち続け、粘り強く取り組む力のこと。目標をやり遂げる人を見ると、「才能があるのだな」と考えてしまうかもしれない。でも生まれつきの才能より、小さな努力を継続的に積み重ねることのほうが重要だとこの本は説く。努力をしなければ、才能があっても宝の持ち腐れだというのだ。

やり抜く力は、一歩ずつでも前に進むこと、7回転んだら8回起き上がること、人生という長距離マラソンで幸せをつかむことに繋がるという。本を読みながら、やり抜く力や粘り強さは、日々の仕事はもちろんのこと、子育てにも応用できるし、子どもたちにも身に付けてもらいたいと感じた。

年齢とともに伸ばせる

私がうれしかったのは、やり抜く力は自分のやり方次第で伸ばせると書いてあったこと。一つは粘り強さを自分で「内側から伸ばす」方法。そして「外側から伸ばす」方法。年齢が上がれば上がるほど自分にとって何が重要かわかってくるので、情熱や粘り強さを継続しやすくなるという。歳を経るにしたがって体の無理がきかなくなり、もっと粘り強さを身に付けたいと思っていた私は、このメッセージに勇気づけられた。

本では、やり抜く力をはかる「グリット・スケール」が紹介されている。自分のスコアを知ると、本で示唆されている内容が途端に“自分ごと”になり、主体的に取り組めるから、皆さんもぜひ実際にご自身のグリット・スケールをはかってみるといいと思う。私のスコアは3.4点(最高スコアは5)と、それほど高くはなかった。

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なぜだろうと考えてみたところ、グリット・スケールがはかる「情熱」と「粘り強さ」の指標のうち、「情熱」の部分が弱いようだった。「粘り強さ」の点数だけを平均すると4.2点で、必死に努力したり挫折から立ち直ったりする力の方が、「情熱」の指標である「一つのことにずっと続けて取り組むこと」を上回っている。

私はさまざまなことに興味を持ちやすく、関心のあるテーマも毎年のように変わるから、さもありなんと感じた。私は一貫して「人の持つ力を信じて応援すること」に情熱を傾けているが、学び、実践する手法は、ファシリテーションからコーチング、チームトレーニング……と様々なので、「一つだけをやり抜く」力としては評価されないのだろうなと思った。

やり抜いたからこそつかんだ成果

そんな私でも、やり抜く力を発揮して取り組み、形にしてきた成果がある。以前書いたコラム「新しい環境があなたの“資産”を作るでも触れた、災害時に母子を守るシステム作りだ。被災地で困っている母子を見て、必要性を強く感じた私がこの6年間、ずっと取り組んできたニッチな分野である。

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東日本大震災が起こったとき、私は産婦人科医として支援活動に参加した。被災地に駆けつけると、妊婦さんや子どもがどこにいるのかわからず、避難所で赤ちゃんのいる家族がいても気遣ってもらえない。医師である私は何の役にも立てなかった。

ただ、そのような状況を目の当たりにしたことで、災害時こそお母さんや子どもを守らなければ、それが平時から、皆が手を取り合って妊婦さんや赤ちゃんを守る地域づくりにつながると強く感じ、地域の方々や自治体、医療関係者にはたらきかけて、災害時に妊婦さんや子どもたちが守られるようなシステムづくりに取り組んだ。

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6年にわたって、地域の中の災害時母子救護プロジェクトを立ち上げたり、自治体の方と話して啓発パンフレットや研修内容、チェックシートを開発したりしたことが実を結んだ。今では、国のガイドラインで災害時に妊産婦や乳幼児を守ることが当然のように書きこまれるようになり、多くの自治体で「災害時母子対応」の必要性が明文化された。医療や消防、教育の分野でも災害時の母子をどう守るか、という議論が活発になった。

ここまで至ったのは、同じような疑問を感じていた人々の意識を浮き彫りにし、周囲にも災害時に真っ先に母子を守る重要性や必要性が伝わり、そこからまた新たな情熱と粘り強さが生まれていったから。「やり抜く力」は伝染するのだ。

内側から突き上げる情熱

とはいえ私はすべてのことに対して努力し続けるべきだとは思わない。大切なのはどんな目的を持って、何をやり続けるかということ。興味や情熱を持って自分の内側から突き上げる何かが必要だと思う。

私にとっては、誰かの役に立ちたいという気持ちが何かをやり遂げる原動力になる。自分が動くことで仲間と目標を達成できた時の充実感が新たな情熱を産み、やり抜く力を支えてくれる。

それは仕事に限った話ではない。この間は、誕生日を迎える友人を驚かせようとサプライズパーティーを企画した。ほかの友人たちも忙しかったけれど、限られた時間の中、アイデアを出し合って準備を整えパーティーを開いたら友達は涙するほど感激してくれた。

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読者の皆さんも昔、親の目を盗んででも、叱られてでも、やめなかったこと、大事にしていたことがあったのではないだろうか。やり抜く力の芽は誰にでもあるし、自分が好きなこと、楽しいと思えることの中に力を発揮する原点が隠れている。

自分が何に価値を置いているか、どんなことならワクワクするか、を基準に「やりたいこと」を決めると、やり抜く力が後からついてくるのではないかと思う。

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