93歳の大先輩に聞いた「働き続けるために大切なこと」

「やっぱり心の底から楽しんで仕事をせなあかん。楽しく仕事をするためには、自分の体と気持ちがついていかなあかんし」

現役最高齢の助産師として知られる坂本フジヱさん(93)が力強く言う。「人間が人間を相手にする仕事やから、心がいちばん大事なんや」とも。ざっくばらんな言い方だけれど、仕事の本質は突いていると思った。90歳を超えても、なお現役であるのは本当だ。(前編「93歳・現役助産師の「ライフ・シフト」的生き方」はこちら

有名になったのは80代から

80代になってから著書の出版やテレビ出演で知られるようになった坂本さんは普段、和歌山県田辺市の助産所で妊婦さんの健診や相談、お産のサポートにあたっている。

「“ふじやん”は年を取ってから有名人になってすごいなあ」。古くから坂本さんと付き合いのあった私の実家では、時折、そんな会話をしてきた。地元紙の記者として私が最後に坂本さんを取材させてもらったのは17年も前のことだが、当時は今ほど広く知られる存在ではなかった。

著書『大丈夫やで』は韓国と台湾でも発行された。本が縁となり、坂本さんは90歳で台湾の助産師学校にて講演も行った

今回、あらためて取材させてもらうにあたり、どうして坂本さんが90歳を超えても、元気で仕事を続けられているのかを考えた。叔母から「(坂本さんは)いつも前向きだからじゃないか」と言われ、なるほどと思った。

保たれる若々しさ

取材と並行し、人生100年時代を生きるヒントが記されている『ライフ・シフト』を読んだ。長寿の恩恵を受けるためには、「教育→仕事→引退」という3ステージの人生に別れを告げ、年齢に関わらず生産的で、創造的に生きるよう指南している。その長い人生を貫く柱になるのは、ほとんどの人にとって「仕事」だろう。

キャリアをどのように築いていくかは、仕事を持つ人にとって大きな関心事だ。しかし、『ライフ・シフト』では、キャリアの階段を上り続けるのではなく、ときには階段を下りることで、若い人たちと交わってコーチングをしたり、ロールモデルになったりできると書かれている。また、自身も若い同僚たちから学ぶことで“活力資産”を強化し、人生に対して前向きな姿勢が持てるようになる、という。

Photo by MARIA

坂本さんも日々、後進の助産師さんたちと一緒に仕事をしている。お産や健診は若手の助産師さんたちに任せ、自分にできることとして言葉がけやマッサージのサポートにまわる。坂本さんが信念を持って続けてきた地元高校での思春期教育も、後続の助産師さんが引き継いだ。「(若手の助産師さんらの)仕事ぶりを見ていたら、なるほどな、と思うことは多いし、細かいことまでよう気を使っとる。勉強になるなあ」といった具合に、考え方は柔軟だ。

100年ライフで若々しさが強まる要因は、“エイジ”と“ステージ”が切り離され、さまざまな年齢層が混ざり合う機会が飛躍的に増えることだという。坂本さんも正しく、日々、自分とは違う年代の人たちと接し、柔軟に物事を考えられる姿勢を持っている。

自分に与えられた仕事

坂本さんは「その人その人に与えられた仕事がある」という。「(その職業に)なりたい、と思う心が間違ってなかったら、どんなことがあっても、長く続けていける。その仕事が好きで、自分は次の世代を育てていく仕事をしている。心からそう思って仕事できている人は、必ず尊敬される人間になっていきますよ」。

一方で、子育てを優先するあまり、自分が本当にやりたい仕事をあきらめる女性が多いのも現状。出産後、仕事復帰をどうするか悩んで、坂本さんのところへ相談に来る人も多い。

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そういう人たちには迷わずこう言う。「今はね、子どもを預かってくれるところもあるし、いろいろなサービスもあるから、仕事したらええ。何でも思ったときにやらんと、あとから悔やんでも遅い。子どもにはお迎えに行ったあと、『今日もお母さんは人さんのお役に立てる仕事ができたよ、ありがとう』って声をかけてあげるんや。子どもは大好きなお母さんの役に立てるのがいちばんうれしいんやから」。

みんなが先生

自分の人生を振り返れば、「良いことばっかり」と前向きな答えが返ってきた。とはいえ、もう死にたいと思ったことも、2、3度あったと聞く。そのたび、よしもう一度、と立ち上がる気力がわいたのは、家族であったり、仕事を通じた自分の居場所であったり、『ライフ・シフト』でいう“無形資産”の影響が大きかった。だからこそ、お金よりも、人の心のために、自分が役に立てることに力を尽くしたいのだという。

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「切羽詰まった様子で、顔色悪いまま相談に来た人が、私とおしゃべりしたら、帰るときにはほっぺたがちょっと色づいてる。ああ、これであの人は助かったな、良かったなって思ったら、お金にはならんことかもしれんけど、自分の心の楽しみになる。だから、私に相談しにくる人に、私の方こそ助けられている。みんなが私の先生や」

これからも優しい心、おだやかな心で、助産所を訪れる人たちをお迎えしたい、と言う坂本さん。「いつ死ぬんやろ? なんて変なこと考えても仕方ないわ。生きている間は一生懸命、仕事をさせてもらうだけ」――。今なお、仕事に対する熱意は現在進行形だ。

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