職場やPTAで役に立つ「部外者」の視点

『サイロ・エフェクト』の著者ジリアン・テットは文化人類学を学んだ人でもある。この本は、一見すると難しいビジネス書だが、人々の習慣や文化、思考回路などを研究する立場から書かれた本なので、子どもを持つ私たちが参考にできるポイントがたくさんある。

私は特に、「インサイダー(内部にいる人)兼アウトサイダー(部外者)」の視点を持つことが大切、と書かれた部分に共感した。インサイダー兼アウトサイダーとは、組織の中にいながら、中の文化や常識に染まらず、外の視点をも持ち合わせた立場のことだ。

職場やPTAなどどんな組織でも、中の人には“当たり前”になっている仕事の流れがあると思う。組織の中にいると気づかないけれど、外から見れば「変だな」「こうしたらもっと仕事が速いのに」と感じることもあるだろう。

ランチタイムに職場の人を誘ってみる

インサイダー兼アウトサイダーの視点は、たとえば職場で役に立つかもしれない。

子育て中であれば、チームメンバーとランチタイムミーティングを開催するのはどうだろう。ハーバードで大学院生をしていた頃、ランチタイムの時間帯で職員や学生のための心のケアから子どものいじめ、老いた親の介護など幅広いテーマを扱うセミナーが開催されていて、勤務時間外は家族のことで手いっぱいな子育て&介護世代にはありがたかった。

Photo by MARIA

夜の“飲ミュニケーション”ではなく、子育て世代が周囲の人とランチタイムに交流できれば、オフィスでも理解してくれる人が増えるかもしれない。きっとチームのメンバーは、自分の時間感覚や価値観をわかってくれるはずだ。

インサイダー兼アウトサイダーの視点は、たとえば小学校のPTAや保護者会で役に立つかもしれない。

はたらいているとこうした平日の行事に参加しづらいけれど、お世話になっている学校にはできるだけ協力したい気持ちは皆持っていると思う。デスクワークで貢献できる仕事を作ったり、土曜日の授業参観に合わせて保護者会をしたりと、誰もが参加しやすい制度に変われば、参加できない親が後ろめたさを感じなくても済む。

現状を変えるヒントは、いろいろな立場の人の意見を聞くことにある。毎年、ただ同じ流れを繰り返すのではなく、勇気を持ってアウトサイダーの視点を取り入れればきっといい方向に進むこともあるはず。

Photo by MARIA

それでは、中にいながら外からの視点を持つにはどうすればいいだろう。

たとえば接する情報やニュースを変えてみたり、職場の集まりや部署を超えたプロジェクトを通じて普段接する機会の少ない人たちと会ってみたりするのはどうだろう。別の部署を訪ね、書類の流れや机の配置、コピーの取り方などを話題にするだけでも、自分たちの当たり前が当たり前でないことに気づくだろう。

少数派だからこその視点

このコラムを読んでいる皆さんの中には「自分は少数派だ」と感じている人がいるかもしれない。男性ばかりの会議に女性一人で参加する。母親だらけの保育園に父親である自分が迎えに行く。年配者ばかりの会議で最年少の自分が末席に着く。若いお母さんばかりの子育てサークルに40代の自分がもじもじしながら参加する。産休前とは違う職場に復職する、など。

Photo by MARIA

日本は今、人口に占める15歳未満の子ども割合が最も低い国。子育て世代はそもそも少数派だ。ママ友同士なら子どもや配偶者のことについて話せるけれど、相手によってはそうではない雰囲気があるかもしれない。私たちの子ども世代が親になる頃には、子育て世代は今よりもっと少数派になるだろう。

でも、少数派にしかない強みもある。

私自身は、女医、子どもを持てばママドクター、そして留学生、外部から来た被災地支援者、民間出身の行政医師、と、これまで“よそ者街道”まっしぐらで生きてきた。研修医として外科、内科、小児科、産婦人科、麻酔科と数カ月おきに研修をしていた24歳の頃から、いつも短期間で次の職場に移ってきた。そのたびにまったくの新人からスタートし、器具の掃除から部屋の後片付け、手技など周りの人に教わりながら覚えた。

Photo by Fumishige Ogata

研修医以降も結婚や留学に伴って何度も転職し、同期たちが次々と中堅になる頃に再び学生となったり、新しい社会医学という分野を学び直したり。10歳も20歳も年下の人たちに頭を下げて教えてもらいながら、今も初めての仕事に取り組んでいる。

少数派である私のひそかな喜びは、「知らなかったことを知ること」「できなかったことができるようになること」だ。先日も、行政職員なら当たり前の「起案」「決済」の書類を生まれて初めて作って、ちょっと感動した。

少数派だから、“派閥”に巻き込まれないのもいいところ。よそ者だからこそ、いくつになっても初心者の新鮮さを楽しみ、初めてのことでもオープンマインドで受け入れ、感謝しながら教えてもらう。そうすれば、アウトサイダー的な視点を持ちながらいろんなサイローー縦割りの組織を突破していけるはずだ。

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