母の苦労を目にしてきても心の底で許せない

僧侶であり3人のお子さんを育てるお母さんでもある酒井菜法さん。一緒に悩みながら、人生を豊かに歩むヒントを探していきたいと、読者のみなさんからのお悩み相談を受け付けています。今回寄せられたご相談はこちらのお母さんからでした。

お悩み相談

4人姉妹の末っ子です。上の姉2人が母によって人生を台なしにされ苦しむ姿を見てきて、我がことのようにつらい思いをしてきました。もう1人の姉は母に溺愛され、金銭面でも頼りきっています。母は社会的には「いい人」で通っていますが、娘のよからぬうわさを流したり、姉妹が仲良く付き合っていることを知ると暴れたりします。母自身、自分の親の借金に振り回され、暴力を受けており、母の苦労を娘の私たちも目の当たりにしてきました。でも、優しい言葉をかけても母には響きません。私も上の姉2人もなんとか家庭を持ち、子どもにも恵まれ、幸せに生きたいと思っているのですが、どうしても心の底で母を許すことができません。
(Iさん 35歳/未就学の女の子の母 専業主婦)

長い間、苦しい思いをしてこられたのですね。さぞつらかったことでしょう。

あなたは「心の底で母を許すことができない」とおっしゃっていますが、「心の底で」許せないということは、上辺には許してあげたいという気持ちがあるのかもしれませんね。許すことができないほどの憎しみに気持ちがとらわれているということは、裏返せばそれほど深い愛情があるから、ということでもあります。「愛」は仏教では離れられない欲で、苦しみです。

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人生にはいろいろな出会いがありますよね。その中には「この人に出会えてよかった」といううれしい出会いもあれば、「出会わなければよかった」と後悔する出会いもあるでしょう。他人ですらこのようなことがあるのですから、家族でもあり得ることです。

みんなが同じような人格者であり、お互いに尊重し合えるならば、「慈悲」という思いやりを持って接することができます。しかし、どんなに思いやりを持って接しても相手がそれを受け入れてくれなければ、それは苦しみになります。

一度離れてみる

仏教では人生は「四苦八苦」といい、自分の思うままにはならないものとされています。その「苦」の中のひとつが、以前もお話した「怨憎会苦(おんぞうえく)」。恨みや憎しみを抱く人、嫌いな人と出会う苦しみです。会いたくない、一緒にいたくないという苦しみは人生の中では避けて通れません。

では、どうすればいいのか? それは、今回の場合は離れるしかありません。少し距離を置くのです。会わないようにすること、気にしないようにすること。

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動物や鳥は、赤ちゃんのときは親が命がけで子どもを守りますが、やがて巣立ちのときがやってくると、親は子どもを邪険にし、追い出します。これは人間界でも同じで、思春期になり巣立ちの準備段階に入ると、子ども自身が自立に向かって親の干渉を拒むようになります。親も子も、自立するときが必ずやってくるのです。

あなたのお母さんは子どもたちが巣立っていくことに不安を覚えているのでしょう。子どもはもう立派な大人なのに、ね。お母さんを変えることは残念ながら無理かもしれません。相手を変えようと思うと、あなたがまた苦しむことになります。それならば、自分のほうから巣立っていくしかありません。

離れていても、幸せを願って

許すには時間がかかるかもしれませんが、まずは離れることです。そして、離れていても毎日、お母さんの幸せを願ってあげてください。心の底では許せないのに幸せを願うことはとても苦しく、つらいことです。でも、あなたにはお母さんへの愛情があります。心の中だけでもお母さんの幸せを願うことで、あなたの心が少しずつ変わります。

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離れることで、最初のうちはお母さんに何か言われるなど、苦しんだり傷ついたりするかもしれません。でも、どんなにひどいことを言われても、毎日幸せを願い続けるのです。願うということは祈りです。苦しいけれど、必ず何かが変わってきます。

その際、合掌してみるのもおすすめですよ。合掌することで、何か目に見えない大きな存在が見守っていてくれているような気持ちになり、心が穏やかになり願いが何とかなる思いが強く持てるようになります。

離れることで円満な関係になる

親から離れることは親不孝ではありません。今、離れることで、結果的に自分もお母さんも幸せになれるのだと気持ちに整理をつけることが大切です。これは自分のためであり、お母さんのためでもあります。嫌いになるためにやるのではなく、円満な関係を保つためにやるのだ、と。

お母さんを見捨てず、近づきすぎず、あたたかく見守りましょう。そうすることで自分の生活をより大事にできるようになるはずです。今のあなたにとっては、ご主人やお嬢さんとともに、穏やかで思いやりのある家庭を築けるよう努めることが一番です。

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そして、あなたには支え合えるお姉さんたちがいます。苦しみはお姉さんたちも同じはず。一人で抱え込まず、姉妹で思いやりを育み、いつの日か「怨憎会苦(おんぞうえく)」の苦しみから逃れられることを願っています。

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