情景を思い浮かべながら作るオリジナルのアロマ

私は、アロマ調香デザイナーとして、これまでに5000種以上もの香りを作り出してきた。オリジナルの香りによって、企業の空間演出やイベントのアロマプロデュースも手掛けている。最近では、アーティストのコンサート会場で香りの演出をするというお仕事もあったし、今年4月には、世界最大の家具見本市であるミラノサローネでもアロマ空間の演出を行ってきた。

アロマの精油には、数百種類もの微量の芳香成分が含まれていて、それらが複雑に絡み合って香りを生み出している。だから1種類の精油だけでも十分複雑なのだけれど、その香りをさらに組み合わせて、さまざまな目的に合わせて新しい香りを作り出す「精油のブレンディング」が、私の得意とするところ。今回は、香りのブレンドについてお伝えしたいと思う。

新しい香りを作り出すとき、まず行うのはイメージを膨らませること。そこから、ベースとなる香り(ベースノート)を決める。そして、さらにアクセントをつけたり、スパイスを利かせたりするために、計量して香りを確かめながらいろいろな精油をブレンドしていく。

7月に発表した新ブランド「VOYAGE」は、場所・季節・時間をキーワードに香りをデザインしたブレンドオイル。今回発表した「KYOTO/17:00/early summer」「PARIS/11:00/autumn」「TOKYO/23:00/winter」という3種類の商品の舞台裏からブレンディングの具体的なプロセスをお伝えする。

京都の記憶とともに

私は幼い頃から、京都にある父の生家が大好きだった。祖父母に甘えて過ごした京都の家は私の香りの原点。家の木戸をガラガラと開けた瞬間に広がるお香の香りは、夏の蒸し暑さ、鳩の鳴き声、お坊さんがバイクに乗って通り過ぎていく音など、すべての五感の記憶とともに、私の心に深く刻まれている。

Photo by Tomoko Saito

そんな京都の思い出をベースに作ったのが「KYOTO」のブレンドオイル。今回は、初夏の京都、雨上がりの夕方、高台寺の裏あたりのしっとり濡れた石畳に、あかりがポツポツと灯り始める情景をイメージした。

ベースとなるのは、白檀ともいわれるサンダルウッド。そこにヒノキ、柚子、和ハッカといった和の香りをブレンド。さわやかなトップノートから、艶を感じるミドルノートへ、最後はお香や木の落ち着く香りに変化する。

トップノート:だいだい、柚子、和ハッカ
ミドルノート:タイムリナロール、ヒノキ
ベースノート:サンダルウッド、ペティバー

遅く起きたパリの朝は

「PARIS」の香りを作るときにイメージしたのは、ゆっくり起きたパリの朝の情景。カフェで焼き立てのパンをほおばりながら、お気に入りの本のページをめくる私がいる。フレッシュジュースを連想させるトップノートから、異国を感じるスパイシーなミドルノートを経て、ワインのような芳醇な香りに変化する。

トップノート:マンダリン、レモン、スペアミント
ミドルノート:カルダモン、パルマローザ
ベースノート:フランキンセンス、ベンゾイン

新ブランド「VOYAGE」の3種類の香り

ミドルノートに使ったカルダモンは、少しスパイシーな香り。そして、ベースノートに使っているベンゾインはバニラのようなふわっとした甘い香りを持つ。こうした精油をベースに、柑橘系、ミント系のすっきりとした香りをトップに加えることで、香りに深みを出すことができる。

銀座の夜の一人時間

「TOKYO」の香りにはいろいろな着想があったのだけれど、大人の女性らしい上質な香りを作ってみようと思った。ジャズライブを楽しんだ冬の夜、一人で静かに飲みたくてもう一軒と寄った久しぶりの私時間。スマートな印象のトップノートから甘くやわらかな雰囲気に変化する香りだ。女性らしさを表現するためにローズを多めにブレンドしている。

トップノート:レモン、ベルガモット、ユーカリラディアータ
ミドルノート:ローズ、ラベンダー、ゼラニウム
ベースノート:シダーウッド、パチュリ

イメージを膨らませるために、時には音楽を聴きながらブレンドしたり、実際に夕暮れの街に出かけて社交の雰囲気を味わったりもする。オリジナルのブレンドオイルを私はこんなふうにして作り出している。

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