食卓と世界の海をつなげる親子の会話

Photo by Koichi Imai

料理研究家の和田明日香さんと、店舗を持たない魚屋ユニット「魚屋あさい」として活動する浅井有美さんの対談企画。最終回となる第3回は、お二人の仕事の共通点である「食」について語っていただきました。食べることが大好きというお二人は、「食」にまつわるあれこれを子どもたちにどう伝えているのでしょうか。

◇浅井◇
子供が産まれたとき、自分の人生の軸について考えてみたんです。「私の人生の幸せは、家族や好きな人とうまいものを食べる」、これに尽きる。そのために私は仕事をしているし、夫ともその思いは共有しています。

◆和田◆
その通りだと思います! 自分の大切な人とおいしいものを食べるって、間違いなく人生の幸せ。

Photo by Koichi Imai

◆和田◆
この春、屋久島で取材の仕事があったとき、家族も一緒に来てくれたんです。屋久島には鹿が多くて、猟師さんが山でつかまえて解体し、食材にしている。私が鹿の解体施設を見学に行くとき、(6歳、4歳、3歳の)子どもたちにはちょっと刺激が強いかなと思いつつ連れて行ったんです。

子どもたちは最初、施設の人が華麗に鹿をさばいていく様子をじーっと見ているんですけど、それが鹿だとわかってないんです。実は前日に車に乗っていたときに鹿を見かけて、「かわいい、かわいい」と家族で盛り上がっていた。その鹿が、今日は目の前で皮をはがされて頭も落とされて、肉の塊になっている。すごく言いづらかったのですが、「あれは鹿なんだよ」って教えたんです。そうしたらみんな、「昨日の!?」って……。

◇浅井◇
そうなりますよね……。

◆和田◆
途端に「かわいそう!」になるんですよね。「やっつけたの?」「痛くないの?」と大騒ぎ。6歳の長女がいちばんショックを受けて、「ママ、バカ!」って。見せたくて連れてきたのに、うまく説明できなくて悶々としました。

その後で、解体施設の代表とお会いしたときに子どもたちの反応を話したら、「かわいそうと思うことは当然だし大事なこと」と諭されたんです。確かに、命が奪われたということは純粋に悲しい。大事なのは、そこから何を受けとるか。

浅井有美さん Photo by Koichi Imai

◆和田◆
解体施設の方にお話を聞いた後、鹿肉を使ったボロネーゼを出してくれるレストランに行きました。子どもたちに、「鹿も牛も豚も魚も、人間が食べるために死んじゃうのはすごく悲しいことかもしれないけど、ママにとっては、その鹿とか牛をみんなが食べて大きくなることはうれしいんだ」って、ちょっと真剣に話しました。

◇浅井◇
お子さんたちは?

◆和田◆
「ふーん」、くらいの反応でした(笑)。ちょっとまだ早かったかも。

鹿肉のボロネーゼを3人ともモリモリ食べて、「鹿うめえ」って言っていたので、今はこれでいいかなと思ってます。

親子で魚の話をするきっかけに

店舗を持たない魚屋ユニット「魚屋あさい」では、大人・子ども向けの魚さばき教室も開催しています。対談の前に、和田さんにも魚さばき教室に参加してもらいました。

イサキをさばく和田さん(右)。目つきが真剣 Photo by Koichi Imai

◆和田◆
私は前から、より近い距離で人に伝える仕事がしたいっていうことを考えていて、食堂でもやろうかなって思ったりしてたんです。浅井さんの教室は、参加者の方たちとの距離感がすごく近かったですね。

◇浅井◇
30代~40代で魚をさばけない方が割と多い気がしていて。魚はゴミも出るし、におうし……なんてマイナスイメージもある。そうすると食卓に魚がなかなか出てこないし、親子で魚について会話をすることも減ってしまう。

「魚屋あさい」では、その意識を変えたいんです。魚さばき教室に参加した人がSNSに写真をアップしてくれて「あ、楽しそう」とか「魚をさばけるってかっこいい」と思ってもらえたら。

Photo by Koichi Imai

◆和田◆
魚屋さんに頼めばやってもらえるし、スーパーではさばかれた状態で売っているからたしかに困らないですよね。でもきっと、「魚をさばけたらかっこいい」とみんな思っているんです。さばくところを子どもに見せたい、食卓で子どもに魚の話をきちんとしたいと思っている親は多いはず。

◇浅井◇
そう思います。参加すると「骨抜きって楽しいんですね」「100円ショップの包丁でもさばけるなんて知らなかったです」と楽しんでくれる。「今度家でもやってみます」と言ってもらうのがやりがいですね。

魚さばき教室に参加された皆さんと一緒に Photo by Koichi Imai

◆和田◆
私は、メディアやSNSを通じて伝える仕事が多いけれど、今日教室に参加してみて“直に伝える場”を作っていきたいなと改めて思いました。今日も、海外からいらしていた参加者が「魚の目が怖いから見ないでさばく」と言っていて、でも一生懸命で(笑)。食に対する考えって皆さまざまだから、まずは小さなケースをいっぱい見ていきたいと思うんです。

食卓と世界の海をつなげる

◆和田◆
屋久島での鹿の経験を通じて、「食育に携わる身として、私は子どもたちにこういうことを言いたかったんだな」って見直すことができたんです。「この体は、さまざまな動物の命と、食にかかわる大勢の人の頑張りでできているんだぞ」ということを子どもたちに刷り込んでいかなきゃなと思う。浅井さんみたいに日常的に魚を扱っていると、知らず知らずのうちに食育ができるんだろうなと思います。子ども向けの教室も開催されているんですよね?

◇浅井◇
子ども向けの教室でも、まず市場に行っておじちゃんたちの話を聞いて、一緒に魚を買う。その後、子どもたちに魚のうろこを引かせたり、エビの皮をむかせたりします。市場に行ってはじめて、「海から市場に来て、これから店に並ぶんだよ」という話ができる。社会の仕組みを見ると、「いろんな人がかかわって頑張っているんだなあ」と、子どもだって考える。

Photo by Koichi Imai

◆和田◆
スーパーに行くだけだと、「どこから来たのか」なんて考えないですよね。

◇浅井◇
魚に触れて「うろこが痛い」「ぬるぬるしてる」みたいな感想を持ってもらうだけでも違うんですけど、家に帰ってから「市場でおじさんがこんなこと言ってたな」「食卓に並んだこの魚はどこから来たんだろう」みたいな反応があるとさらにいい。

◆和田◆
築地に来れば市場があって海がある。モーリタニアのタコだったらモーリタニアまで世界が広がっていく。「食卓の焼き魚」か「スーパーの切り身」しか知らなかったとしたら、世界がすごく膨らみますよね。

◇浅井◇
そうなんです!

◆和田◆
すごいな。そこから「700軒のお店を出せるほどの魚を育てている海」みたいな感じに意識が向くと、環境問題にも関心がいく。海を汚していられないなって、大人の私でも思いますよ。

「料理研究家」和田明日香さんと「魚屋あさい」浅井有美さんの対談企画

第1回:「わたし」指名で仕事が来る秘訣
第2回:“夫婦ではたらく”という選択

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