「信頼残高」が親子の絆を生む

5児の母であり医師・研究者である吉田穂波さんのブックコラム。吉田さんのバイブルでもある『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)は、子どもを持つお母さんにとっても学ぶことがたくさんある本です。最終回となる今回のコラムでは、家族との信頼関係を築いていくことの大切さについて語っていただきました。

わが家には12歳、10歳、8歳、6歳、3歳の子どもたちがいる。上の子たちが幼かったころ、周囲から「子どもの成長はあっという間だから、一緒に過ごせる時間は貴重ですよ」「子どもが大きくなったら分かりますよ」と言われたが、忙しい子育ての渦中にいた私の心にはまったく響かなかった。

Photo by MARIA

上の4人は女の子で、姉妹の間ではおしゃべりが絶えないのだけれど、中1になった長女は最近、私が話しかけても素っ気ない。親離れしていく時期でもあり、成長の過程において彼女の反応はとても正常だと思う一方で、親離れされてみて初めて、子どもたちとの信頼関係を、もっと大事にしなければ、という気持ちがわいてきた。長女の親離れを経験したおかげで、今さらながら、子どもたちとの時間には限りがあるのだと気づかされたのだ。

信頼残高を増やす

『7つの習慣』は、第1の習慣から第3の習慣のところで、まず自分のあり方を見つめ、自立するためのステップが示され、第4の習慣から第6の習慣では、人との関係を築くことによってさらに充実した人生を送るための原則が書かれている。高い信頼関係を作り、それを維持し、大切にしてこそ、お互いのWIN-WINを考えたり、理解し合うことができるのだ。

そして、第7の習慣は、さらに、これらの習慣をブラッシュアップし続け、継続することにフォーカスを置いている。一度身に付けた良い習慣でも、それをさらに改善しようとするところ、より良い段階を目指すところなど、コヴィー氏の先見の明に感心する。

この本を読んで影響を受けたことはたくさんあるが、中でも、人と人との信頼関係を銀行口座に例えてイメージさせる方法はとても分かりやすく、行動を変えることにつながりそうだと感じた。著者のコヴィー氏によると、他人に礼儀正しく接し、親切にし、約束を守ることで、相手に対する自分の「信頼口座」の残高が増えるから、残高がたくさんあれば、互いに支え合ううえで、大きな相乗効果を生むという。これは家族を含めたどんな人間関係においても言えることだと思った。

「信頼口座」そのものは、特段おカネがかかることではない。相手の話をよく聞き、深く理解するよう努めること、相手がどうしたら喜ぶか考えること、自分からの愛情や信頼を伝えることが、信頼口座への預け入れになる。

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私は、はたらき盛りの20代からずっと、医療、教育、研究現場での仕事を通じて妊婦さんや赤ちゃんの健康を支援し、保健医療従事者の人材を育てる努力をしてきた。また、時間のマネジメント法や健康をサポートする情報を伝えるなど、人々に貢献できる仕事にやりがいを感じてきた。

その一方、日に日に親離れしていく子どもたちを見ていると、もっと家族と向き合いたいという気持ちが強くなってきた。限られた時間の中で家族との信頼口座の残高をいかに増やしていくかが、今の私の最大の関心事になっている。

守れなかった小さな約束

子どもから「ここに連れて行ってほしい」とせがまれたとき、軽く「はいはい、今度ね」とあしらってしまい、結局は実行できなかったことを今さらながらに思い出す。仕事から帰った後、子どもたちの話を、ひらりひらりと聞き流していたこともあった。これでは、子どもたちとの信頼残高を減らすばかり。家族だから許される、と甘えてしまうところもあったが、取り返しのつかないことをしてしまったと後悔している。

末っ子のオムツは1年前に取れたが、私にとって最後のオムツ替えがいつだったか、その日のことを思い出せない。子どもたちが自分でできることは日々増えていて、毎日、毎日、最後かもしれない場面に出くわしているはずなのに、今までの私は忙しいのを理由に、貴重な一瞬、一瞬をあまり大事にとらえてこなかった。

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子どもたちと毎日こうして一緒に過ごせるのは、きっとあと数年くらいだろう。今はプライベートな生活を大切にすることにもっと重点を置きたいと考えるようになり、週末は家族の時間を最優先にできるよう意識して予定を考えるようにし、約束は必ず守るようにしている。

長女に対して「今まであなたの気持ちにより添う努力が足りなくてごめんね」「小さい頃に、せっかく私を慕って後追いしてくれて、べったり甘えてくれる時期があったのに、もったいなかったね」という後悔の気持ちは今もある。その痛みを抱えつつ、毎日一緒に過ごしている家族との信頼関係にこそ、これからはもっとエネルギーを注ごうと思っている。

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