子どもと「離れても大丈夫」になるには?

Photo by MARIA

私がデンマークに興味をもったのは、福山型先天性筋ジストロフィーという先天性の病気をもつ二女の真心(まこ)のことがきっかけだ。私にとってもはや日常になった「福祉」というものが、ほかの国でどのように存在しているかを知りたい。そして、「世界一幸せな国」の実情を見てみたい――。

障害児の親としての真面目な関心多々、斜に構えた気持ち少々、「行ってみたい!」の気持ち120%で、デンマークという世界を体感した今回の旅行は、私と子どもの関係を見つめる機会にもなった。

「子どもと一緒」は今だけ?

「子育ては大変だ」。こう思わない親はいない。そんなお母さんを慰めるように、周りの人は「子どもなんてすぐ成長するよ」「そのうち嫌でも手が離れる」「今だけの辛抱」と言う。でも、私たち夫婦にはその“気休め”は当てはまらない。

長女のゆとりは今年10歳になる。友達同士で遊びに出かけることも増え、親からだんだん離れていくのを感じる日々だ。一方で、二女の真心は、おそらくこれからも親の付き添いなしで友達と遊びに行くことはないだろう。今の日本では、障害をもつ子どもは親が介助していくことが大半だ。そこを変えていかない限り、真心は手が離れず、ずっと私たち夫婦といることになる。

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夫は「真心ちゃん、ずっとパパと一緒にいようね」と言い、7歳の真心も「うん」と答える。けれど、真心がこれから大きくなって、ティーンエイジになったら、成人したら、それでも真心はずっと親といたいと思うのだろうか……。そんな疑問を心の片隅に抱えながら、私はデンマーク行きの飛行機に乗っていた。

障害者も“自立”する国

12日間のデンマーク滞在では、約20か所に及ぶさまざまな施設を見学することができた。触れただけで今いるフロアがわかる階段の手すり、健常児も障害児も遊べるブランコ、高齢になっても学べる教育機関……。数えきれないほど多くの人との出会いもあった。そのなかで特に印象に残ったのが、20代後半のすてきな青年、ヤコブくんだ。

ヤコブくんは、15歳の頃に脳の筋ジストロフィーを発症し、今は生活全般に介護が必要な状態だ。けれど、親御さんから独立して別の家に住んでいる。そして、ヤコブくんには友達がたくさんいて、彼のやりたいことを一緒に叶えてくれる。登山や海外旅行にも出かけるし、この夏も日本に来る予定だ。「重度の障害があるのにこんなにフットワークが軽いなんて、日本じゃあり得ない」。最初はそう思った。

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でも、障害をもつ子どもだって、成長したら友達との生活を望むかもしれない。そうした“自立”の選択肢を望むことだってあるはずだ。本来は平等に与えられるはずの選択肢を、周りが配慮しすぎて結果的に本人が選べなくなってしまっていることがあると気づかされた。

真心には、身体的にできないことが存在する。ヤコブくんから教わったのは、それでも可能な自立の形があるということ。真心が大きくなって自分で何かしたいと思ったときに、親がいなくてもなるべく真心が望むかたちで実現できるような環境をつくっていきたい。障害をもつ人が、無理なく周りのサポートを受けられる環境をつくりたいと強く思った。

離れても大丈夫な関係

「旅行に行くときには、お子さんは相当寂しがったんじゃない?」と言われる。確かに、成田空港で私を見送るゆとりはさみしそうにしていたが、出発して4日目からは何も言わなくなったそうだ。真心にいたっては、成田の時点からそんな素振りも見せなかった。私も私で、子どもたちを置いていくのは寂しかったし、罪悪感もあった。でも、飛行機に乗ってからは、気持ちを100%旅行にシフトできた。

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普段から子どもを保育園や家族に預けるといったことが“免疫”になる部分もあるけれど、それだけでは心理的な安心感はつくれない。子どもたちと2週間もの間、物理的に離れていてもお互いに安心していられたのは、日頃から「あなたを愛しているよ」「あなたが大事だよ」というメッセージを伝え合うことで、私と子どもの間に強いつながりを積み重ねていたからだと思う。そんな強いつながりがあれば、たとえ小さな子どもとでも、物理的な距離が障壁にならずにすむ。真心も将来、親から自立した生活を想像できるようになるかもしれない。

おかげで、旅行ではたくさんの“おみやげ”を得ることができた。最大のおみやげは、「障害の有無に関係なく、もっと生きやすい環境にするためにはどうしたらいいんだろう」という漠然としたテーマ。日本でやることはいっぱいある――。私のエンジンは、さらに勢いよく回り出した。

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