「笑って死ぬ」ために大切なこと

加藤さくら

Photo by MARIA

夫が転職することになった。新しい仕事は英語の先生で、この春から中学校が職場になる。

今の仕事とは別の職種になるのだけれど、もともと英会話学校に勤めていたから、「英語を教える」ということがずっと心の中にあったのだと思う。希望する仕事ができるのなら、そのほうが私もうれしい。

でもこの転職に両手をあげて賛成したわけではなかった。今度のポジションは非常勤講師だから、収入は今までよりかなり減る。それに少し前には、大学院に行って経営学修士号(MBA)を取ったばかり。この時は私たち家族も大変だったけれど、今度の仕事で直接役立つわけではない。

加藤さくら

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私と同じ立場なら、反対する人も多いかもしれない。でも私は戸惑いながらも応援することにした。迷ったときや何かを決めなければならないとき、私はいつも、その先に「笑顔」があるかどうかを基準にしているからだ。

「笑って死にたい」

転職しないでと言えば、夫は聞いてくれたと思う。そのほうが安心ではある。でも、やりたいことがあるのに今の仕事を続ける夫をイメージすると、笑顔が浮かばなかった。心のどこかに「あの仕事がしたかった」という思いがずっと残るだろうし、「やっぱり転職しておけばよかった」ということもたくさんあると思う。

でも転職したら、夫には今よりもっと仕事にやりがいが出て、笑顔で毎日が過ごせるはず。長年抱いていたやりたいこと、長い目で人生プランを描いたときに「今」やっておきたいこと、それが転職であるならば、どんなに大変でも充実した毎日になるのだと思う。そしてそれはきっと、私たち家族の笑顔にもつながるはずだ。

加藤さくら

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私の人生のゴールは「笑って死ぬこと」。心理学を学んでいた20代の頃、講義の中でアメリカ先住民の教えに出合った。「あなたが生まれたとき、周りの人は笑ってあなたは泣いていたでしょう。あなたが死ぬときは、あなたが笑って周りが泣くような人生を送りなさい」。

この言葉がとても心に響き、そんな生き方をしようと決めた。人生の最後に笑っているためには、毎日の笑顔の積み重ねが必要だから、明日、1カ月後、1年後、10年後に笑顔でいられるかどうかが大切。だからいつでも笑顔を大切にしたいし、家族や周りの人にもそうであってほしい。

人生が生きやすくなる

「どうしたら笑顔でいられるか」。そう考えることは、人生の中の選択肢を増やすことでもあると思う。

8歳になる長女のゆとりは、時々、学校に行きたくないという。お友達とのトラブルがあるわけではない。理由はないのだけれど、ただ行きたくないという日があるのだ。こんな時はどうするのがいいのだろう。特に問題があるのではないから、少し強引にでも行かせたほうがいいのだろうか。

加藤さくら

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そんなとき私は、無理に行かせることはしていない。行きたくないのに送り出しても、ゆとりが笑顔で一日を過ごせるとイメージできないからだ。もちろん考え方はそれぞれで、勉強は大切だから、とにかく行くべきだという人もいるかもしれない。でもそう考えると、選択肢は「学校へ行く」というたった一つしかない。そんな「こうじゃなきゃダメ」というスタンスでは、生きづらくなってしまう。

「どうしたら笑顔でいられるか」を基準にするなら、選択肢はもっと多くなる。学校へ行ってもいいし、行かなくてもいい。遅刻して後から行ってもいいし、どうしてもつらいなら早退してもいい。今は勉強する方法も色々あるから、家にいても何とかなるはず。選択肢はたくさんあったほうが、人生はずっと生きやすくなるのだ。

強いモチベーションになる

私はこの春、デンマークに福祉事情を見学しに行く予定だ。福祉がとても充実していて、以前から興味があったのだ。

二女の真心(まこ)には「福山型筋ジストロフィー」という先天性の病気がある。筋力が低下していく病気で、6歳になった今もスタイが必要だ。毎日のように使うものだから、できるだけかわいいものを着けてあげたい。でも手に入るのはおしゃれさとはほど遠いものばかりで、とても残念に思っていた。

加藤さくら

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病気や障害を持つ人たちにも買い物を楽しんで、笑顔になってほしい。おしゃれな福祉グッズはその役に立つはず。それを探しに行くのも今回の旅の大きな目的だ。それに今、企業と一緒におしゃれな福祉グッズの開発をしている。将来的には色々な企業や業界の人たちと協力して展開していきたい。

とはいえ、どちらもそう簡単なことではない。デンマークに行くには、留守の間は子どもたちを夫や私の姉、実家の両親に預けなければならない。グッズ開発にはたくさんの作業があるけれど、家事や子育てと両立するのはもちろん大変だ。

それでもたくさんの苦労を乗り越えて挑戦しようと思えるのは、その先に真心や同じように困っている人たちの笑顔が思い浮かぶから。誰かを幸せにしたい、笑ってほしい――そう思うことは、何よりも強いモチベーションになると思う。

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