悩むたびに人生は豊かになる―5つ子母からのメッセージ

Photo by MARIA

渡邊益美さん(49)のおなかに5つの命が同時に宿ったのは、今から18年前のこと。5つ子の子育てでは数えきれないほど悩み、何度となく涙を流した怒濤の日々。人一倍、いや人の5倍大変だったかもしれないけれど、人の10倍以上笑って過ごしてきた。そんな渡邊さんからいま子育てに奮闘しているお母さんたちへのメッセージ。

すべてリセットしたい―――。

育児をしていると、そう思ってしまうこともあるかもしれない。子どもが牛乳をひっくり返した時、SNSで同期の活躍を知った時……。母は強しというけれど、心がもろくなることだってある。

私には5人の子どもがいる。それも4男1女の5つ子だ。今5人は高校3年生。来月そろって卒業式を迎える。ドタバタだった子育ても卒業間近。今はすがすがしい気持ちでいっぱいだ。

「母さんのいいところはポジティブなとこだよね」と5人は口をそろえる。今でこそ何でも笑い飛ばすテキトー母さんだけれど、以前はごく普通の、というよりむしろカタブツ母さんだった。

子育ては親育てとも言われるけれど、まさにそのとおり。この18年間で私はすっかり変わった。考え方も価値観も、好きな色まで変わった。出産前の私が今を覗きに来たら腰を抜かすかもしれない。

渡邊益美さん

妊娠、育児、反抗期……。次々にやって来る課題を一つクリアするたびにお母さんの人生は豊かになる。そう考えると、こぼれた牛乳をふく自分もいとおしく思えてくるのではないだろうか。

5つ子妊娠の衝撃

結婚後、なかなか思うように赤ちゃんが授からず不妊治療を始めた。やっとの思いでおなかに宿ったのは、何と5つ子。それがわかった時は人生最大の衝撃だった。

多胎妊娠はリスクが高いので妊娠4カ月から入院し、出産までは寝たきり。不安と苦しさが募り、思い描いていた幸せな妊婦生活とはあまりに懸け離れていた。

子どもたちが生まれたのは妊娠8カ月目を迎える頃、予定日より3カ月も早い時期だった。出生体重はたった700~800グラム。自力でミルクも飲めず、呼吸すら十分にできないほど未熟な姿に涙がこぼれた。入院はしばらく続いたが、半年後には5人全員が無事わが家にそろった。

人を頼って褒めてもらう

いよいよ始まった5つ子の子育て。想像できるだろうか。明けても暮れてもおむつ替えにミルクに抱っこが続く。マイカーは大型のワンボックスに買い替え、チャイルドシートは5台。車内はぎゃあぎゃあと泣き声の大合唱だった。いたずらはするし、ご機嫌が悪いと大声で泣く。当たり前のことだがそれが5人分なのだ。

そんな怒濤の日々の繰り返しだった。

母親になる前まで「子育てはお母さんがするもの」と思い込んでいたカタブツな私が、目の前の課題を解決するために「一人で頑張り過ぎない」という価値観を受け入れた。

頑張り屋さんほど、誰かに甘えるのは勇気がいるもの。でも5人の赤ちゃんの世話は当然1人ではできない。家族や友人、ボランティアさんたちの手を借りて、昼間は誰かしら手伝いに来てくれた。

そのたびに「えらいね」「私も子育て大変だけど、益美ちゃんを思い出すと踏ん張れる!」と励まされた。両親にもあまり褒められたことがなかった私は、「そっか、私ちゃんと頑張ってるんだ」と初めて自信が持てた気がした。人を受け入れ温かさに触れ、認められることで自己評価が高まる。それでどれだけ私の心が救われたことだろう。

気持ちを言葉で伝える

「気持ちを言葉で伝える」という習慣が身に付いたのも、子育てを通してのこと。気づかせてくれたのは反抗期真っただ中の息子だった。

中学2年生での大、大、大反抗期。あれだけ近くに感じていた息子と会話すらろくに交わせなくなり、「どうせ俺なんていらないんだろ」と言われてしまったのだ。

親の愛情は、あえて言葉に出さなくても伝わるものと思い込んでいた。でもそれで伝わる子もいれば、伝わっていない子もいたのだ。

その時から手紙や会話で思いを伝えるようになった。「信じてるよ」「大好きだよ」。ちょっと照れくさいような言葉も直接伝えた。 同時に“オニババ”も卒業した。しかるのをやめて受け止めたのだ。そのうち、氷が解けるように親子間の温度が上がっていった。

Photo by MARIA

2016年11月、「生まれてきてくれてありがとう!」と朝一番に大声で叫んだ。その日は5人の誕生日。「おめでとう」より先に「ありがとう」と言いたかった。子育てで得たものの貴さをあらためて感じたから。

夫にも「出会ってくれてありがとう」と伝えた。みんな面倒くさそうに照れ笑いしていたが、私が気持ちを言葉に出すようになってから家族の会話も増えた。言葉には相手の心を動かす力がある。特にお母さんの言葉は、想像以上に強い力が宿っているらしい。

仕事や人付き合いに生かされる

子育てで悩むたびに新しい価値観が生まれた。成長が少し遅れても「人と比べない」。5人そろわなくても「個性を認める」。テストを白紙で出しても「気持ちを受け止める」。

Photo by MARIA

5人の個性がバラバラだったからこそ知ったことも山ほどあった。今、その経験が営業の仕事や人付き合いで大いに役立っている。気持ちを表現するようになってから、営業成績も上がった。

さて、3月1日は4人の卒業式。個性を優先したので、5人別々の高校に通っている。どの順番で回ろうかと、夫と作戦を練っている。こればっかりは誰かを頼ることもできないので。

  • この記事をシェア
トップへ戻る