お母さんの笑顔さえあれば子どもは伸びる

女性としての生き方も子育ての選択肢も多様化が進む社会の中で、多くのお母さんたちが「これでいいのだろうか」と悩んでいる。お母さんたちにとって「あるべき姿」「あるべき社会」とはどういうものなのか。長年にわたって数多くの子どもたちの成長を見つめてきた花まる学習会の代表・高濱正伸さんは、「子どもの成長に必要なのはお母さんの笑顔」と話す。

年間4万~5万人のお母さんたちにお会いしている中で最近特によく感じているのが「お母さんが追い込まれてイライラしている」ということ。昔はこんなことなかったはずなのに、今のお母さんたちはなぜかニコニコしていないんです。

その理由は社会のあり方にありました。昔は世話好きの近所のおばちゃんや親戚が近くにいたでしょう。地域ぐるみで子育てをしていたんです。でも今はその“地域”が壊れてしまっている。

日中は子どもと2人きり。育児も家事もすべて自分の肩に乗っかってしまい、笑顔でいたいと思っていてもついイライラしてしまう。まじめで頑張り屋のお母さんほど危ない。

ニコニコカードを3枚

僕はよくお母さんたちに「ニコニコカード」を少なくとも3枚は持っておくことを勧めています。ニコニコカードというのは「これをすればお母さんが自然と笑顔になれる切り札」のこと。

僕の感覚では、ママ友や実の母親、女きょうだいに話を聞いてもらうというのがテッパン。仲のいい人、自分のことをよくわかってくれている人に話をしたら、心がすっきりして表情も明るくなる。

その次にお勧めしたいカードが「仕事をすること」。頑張れば「お疲れさま」と言ってもらえるし、うまくいけば成果が目に見える。うまくいかなければちゃんと叱ってもらえる。仕事を頑張って家に帰れば、家庭モードにスイッチを切り替えやすい。子どもに会えばもう笑顔になりますよね。

Photo by MARIA

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月に20万円の給料で、そのうち15万円が保育料に消えてしまってもいいと思います。笑顔でいられて、家庭じゃないもう一つの居場所ができるなら、お母さんにとっても子どもにとってもプラスになる。ボランティアでもパートでもいいんです。実際、仕事を始めてから調子がよくなったというお母さんを何人も見てきました。

はたらいているお母さんのほうが受験にのめり込みすぎないという印象もあります。バランスが取りやすいのでしょう。目標に向かって親子で一生懸命やるのはとてもいいことだと思うけれど、結果が出なければ仕方がない。人間の価値は受験では決まらないでしょう。ゴールは偏差値の高い学校に入ることじゃなくて、はたらいていてかっこいい大人になることなんだから。

その5分を予定に組み込む

昔は「カギっ子」という言葉があったくらいで、保育園に預けると子どもが「かわいそう」なんて言われたりもした。今はそんな時代でもない。それに「カギっ子」も悪くない。

カギっ子だったという大人にもたくさん話を聞いてきたけれど、みんな口をそろえて言うのは、「さみしかったけれどお母さんには愛されていた」ということ。孤独な時間があってさみしいのは当然だけれど、お母さんから「どうしてる?」なんて1本電話が入るだけで心は安らぐもの。

はたらいているお母さんはとにかく時間がないけれど、1日5分でもいいからきちんと子どもと向き合う時間を作ってほしい。たった5分でいいんです。その5分さえあれば、子どもは残りの23時間55分を頑張れるんです。

夜8時になったら抱っこして「今日は何があったの?」と聞いてあげる。8時5分になったら今度は下の子を抱っこしてあげる、という具合に。大切なのは、その5分を作ることを心掛けるだけじゃなくて、毎日の予定として組み込むこと。

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子どもにとってつらいのは、それをお母さんが忘れてしまう日があること。それはもうショックですよ。「今日は自分のことを気にかけてもらえなかった」とがっかりする。

たまに「真ん中の子は手がかからなくて」なんて言うお母さんがいるけれど、それほど怖いことはありません。かまってほしくてわざと怒られるようなことをするようになる。「心配性すぎる」とうっとうしがられるくらいでちょうどいい。お母さんのことをうっとうしがっている子どもの心は安定しています。

男はわかっていない

とはいえ、はたらいていてもはたらいていなくても、泉のように湧き上がってくる不安とつねに戦っているのがお母さんというもの。守らなければならない存在がいるから“どう猛”にもなるし、夫に対して攻撃的にもなる。

以前、父親向けの講演で「奥さんが笑顔になれるニコニコカードは何ですか」と聞いてみたのだけど、たいていのお父さんは何も答えられない。男はわかってないんです。僕だって結婚した当初は妻に「仕事をやめてほしい」と言ったくらいですから。

だからお父さんは「自分は何もわかっていない」ということにまず気づくべき。男は黙って背中を見せるなんて言っている場合じゃない。わかっていないんだから、とにかくお母さんの話を聞き続けるくらいのことはしなければ。

自分のいちばん身近な女性のことを思いやれるようになれば、社会も変わると思う。企業の両立支援制度についても“してやってる感”がなくなって次世代のために必要なことという意識が入る。そうなれば社会全体でお母さんたちを支えていける。

お母さんの力は社会に必要

たいていの家庭で購買決定権を持っているのはお母さんなのだから、お母さんの力を必要とするビジネスはたくさんある。食品メーカーでも消費財メーカーでも、お母さんの目線なしに商品開発なんてできないはず。時短どころか、週に数日、かつてフルタイムではたらいていた頃の3分の1の時間でいいから来てほしいという企業は多いはず。現場の受け入れ体制を整える必要はありますが。

子どもの成長に影響を与える“関数”はたくさんあるけれど、いちばん大きいのはやっぱりお母さんなんですよ。優秀なお母さんじゃなくて、ニコニコ笑顔で一緒にいるとほっとするお母さん。

外が暗くなった時間に走って帰ってくるお母さんを見たら、「自分のために頑張ってくれている」とうれしく思うのが子どもなんですよ。頑張ってはたらいている母の子は育つんだから大丈夫。自信を持ってください。

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