相手の気持ちに寄り添うってどういうこと?

Photo by MARIA

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私には2人の子どもがいる。8歳になる長女のゆとりと、6歳の二女・真心(まこ)。

真心には「福山型先天性筋ジストロフィー」という病気がある。診断を受けたのは、真心が6カ月のとき。医師から病名を告げられた後、私はそれまでに経験したこともない絶望に襲われた。

「この先どうやって生きていったらいいんだろう」という不安や「私の日頃の行いが悪かったんだ」という罪悪感に押し潰されそうになっていた私が、それでも何とか前に進めたのは、2人の人に話を聞いてもらったからだ。

そのうちの一人は私の父。前回のコラムに書いたとおり、あふれ出す感情のままに話す私に向き合い、ただ黙って聞いてくれた。そのおかげで私は、それまで口に出せなかったネガティブな気持ちを吐き出すことができ、少し落ち着くことができた。

そしてもう一人は、勤めていたときの職場の上司、佳子さんだ。

気持ちを酌み取る聞き方

真心の病気がわかってからの数カ月、私は誰にも会いたくなかった。でも、この人には話を聞いてもらいたいと会いに行ったのが、佳子さんだった。誰かに相談するのが苦手な私が、佳子さんには何でも話していた。それで今回も、自分から会いに行ったのだった。

佳子さんに、病気がわかってからのことを淡々と話した。でも「若くして亡くなるかもしれない」と話した途端、涙がこぼれてきた。佳子さんはアドバイスや意見を言うこともなく、私の話をじっと聞いてくれた。

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佳子さんは私の気持ちを酌み取るように話を聞いてくれた。

「治療法がなくて、一生歩けないと言われた」と話せば、「心配だね」と相づち。「子どもは当たり前のように成長すると思っていたのに、そうじゃなくなってしまった」と言えば、「つらいね」とうなずいてくれる。それが私の気持ちを引き出していった。

鏡のように言葉を返す

それまでの私は、ネガティブな感情を持ってはいけないんじゃないかと思っていた。それに、そんな感情を口にしたら負けのような気がして、自分の中だけで抱え込んでいた。

でも佳子さんが「心配だ」と言えば「心配だね」、「つらい」と打ち明ければ「つらいね」と返してくれたから、こんなことも言ってもいいんだと感じて、感情を外に吐き出すことができた。

それに、鏡のように自分の言葉をそのまま返してくれたので、自分を客観視することもできた。

たとえば、自分でもそれは考えすぎじゃないかと思いながらも、つい私の思考は「食生活が偏っていたから、遺伝子がおかしくなってしまったんじゃないか」なんてことにまで至ってしまう。でも、佳子さんはそんなことまで同じように聞いてくれる。

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だから「それは考えすぎ」と自分の思い込みを見直すことができ、あふれそうだった感情を整理することができた。そうしているうちに少し余裕が生まれてきて、「これからどうしたいか」と前向きなことも考え始めるようになった。

真心の病気のことは、父と佳子さんだけでなく、ほかの人にも話した。その中にはアドバイスや意見を言ってくれる人もいた。でもその言葉は私には届かず、自分の気持ちを話そうとは思わなかった。

聞き方一つで、話しているほうの気持ちはこんなにも違ってくるのだ。

言葉にとらわれすぎない

佳子さんのような「相手の気持ちを酌み取る聞き方」。私はそれにとても救われた。でも意識していないと、なかなかできない。

私たちは普段、言葉でコミュニケーションしている。言葉はとても便利で、ついそれだけに頼りがちだ。けれど話している人の言葉と感情は、いつも一致しているとは限らない。

言葉だけしか考えていないと、相手の本当の気持ちをつかみ損なうこともある。「言葉のわな」にとらわれてしまうのだ。だから私は、話している人の様子や態度がおかしいと感じたら、言葉にとららわれずに相手の気持ちを確認するようにしている。

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ゆとりが6歳、真心が4歳だった頃のこと。夜、子どもたちを寝かしつけようと、いつものように2人の間に寝転がり、真心のほうを向いて背中をトントンしていた。少したった頃、背中の向こうから「まこちゃんなんて、いなければいいのに」という小さな声が聞こえてきた。

ショックを受けて振り向くと、ゆとりも私たちに背中を向けている。言葉はとげとげしくても、その姿はとても寂しそうだった。驚いたけれど、その様子に「SOS」を出しているのだと感じた。

ゆとりに向き直って、どんな気持ちなのかを聞くと「ママがまこちゃんばかり抱っこしていて寂しい」「ママにこっちを向いてほしい」――。とげとげしい言葉の向こうには、こんな気持ちが隠れていた。

本当の気持ちが伝わって安心したのか、その後ゆとりは「こっちを向いてくれるのはまこちゃんが寝てからでいいよ」と言ってくれた。

これは子どもとの経験だけれど、大人も同じ。むしろ子どもよりも自分の感情を出すことが苦手だから、大人のほうが誤解されることが多いかもしれない。

でも言葉だけにとらわれずに、相手の気持ちを酌み取るように聞いて、寄り添ってほしい。そうすることが、より一層温かい人間関係につながると思う。

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