ただ黙って話を聞くだけでも相手は救われる

Photo by MARIA

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困っている人に悩みを相談されたら、ついアドバイスをしたくなってしまうもの。でも時には、何も言わずただ黙って聞くだけのほうがいいこともある。

「ただ黙って相手の話を聞く」というのは、心理学では話を聞くスキルの一つとされている。私は20代の頃に心理学を学んでいたから、こうした聞き方も大事なんだと知ってはいた。でも二女・真心(まこ)に生まれつきの病気があるとわかったとき、それがどんなに救いになるのかを実感した。

真心の病気

真心には「福山型先天性筋ジストロフィー」という病気がある。筋力が低下していく進行性の病気で、日常生活のすべてに誰かの助けがいる。やがて寝たきりになり、若くして亡くなる方も多いといわれている。真心は6歳になった今もそして今後も自分で歩くことはなく、言葉もなかなか出てこない。

病気がわかったきっかけは、6カ月健診だった。小児科で健診を受けると、すぐに大きな病院で精密検査を受けるよう進められ、近所の大病院に検査入院することになった。

病院へ行ったのは真心と私の2人だけだったけれど、医師は検査の結果は夫と2人で聞いてほしいという。夫を呼び出し、嫌な予感を抱えながら医師のもとへ向かうと、そこで聞かされたのが福山型先天性筋ジストロフィーという病気だった。

とても信じられず、とても受け入れられない。「この先、どう生きていったらいいんだろう」「私の日頃の行いが悪かったんだ」。ショックと不安と罪悪感が渦巻き、病院からの帰り道は涙が止まらなかった。

アドバイスはいらない

いったん家に帰り、それから実家へと向かった。夜、長女のゆとりと真心が寝静まった後、リビングで父と母に向き合い、病気のことを報告。病気の説明や病院で言われたことを淡々と伝えた。でもそれが終わると、自然と感情があふれてきた。

真心はこれからどうなってしまうんだろう。寝たきりになってしまうかもしれないなんて。私が悪かったんだ――。

涙を流す母の隣で、父は黙って聞いてくれた。何も言わず、「うん、うん」とうなずくだけ。そんな父の姿勢に私は自然に気持ちを吐き出すことができ、ほんの少し落ち着くことができた。

自分の感情を吐き出すと、不思議と少し心が軽くなった。それまでは、「真心が病気になったのは、私に原因があるんじゃないか」と悶々としていた。でも口に出すとそれを認めてしまうような気がして言葉にできず、とてもつらかった。父に聞いてもらって、心に少し余裕ができた。まだまだ混乱とショックは続いていたけれど、ほんの少し前に進めたように思う。

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こんな経験をして、ただ黙って話を聞くことも、相手のためになるのだと実感した。

それまでは、誰かに悩みを打ち明けられたらアドバイスをしなければと思っていたし、それが相談に乗ることなんだと思っていた。でも、あのときの私にはどんな言葉も届かなかったと思う。

真心の病気のことを他にも何人かに話した。中には「大丈夫だと」とか「あんまり心配しすぎないほうがいいよ」と言ってくれた人もいた。善意で言ってくれたのだとわかっているけれど、ただ私の中を素通りしていくだけで、私には何も響いてこなかった。

父は何も言わなかったけれど、ただただ聞いてくれることで、自分を受け入れてくれていると感じることができた。だからこそ、ネガティブな感情も自分の外へと出すことができたのだろう。

自分で解決するしかない

目の前にいる人が悩んでいるのに、何のアドバイスもしないなんて。ただ黙って聞くだけというと、単に相手を“放置している”と思うかもしれない。でも私が父に対してそう感じなかったのは、「自分で問題を乗り越えられる」と信じてくれているとわかっていたからだ。

冷たく聞こえるかもしれないけれど、自分の悩みは自分の問題で、自力で解決するしかない。それに、自分で乗り越えたほうが、後悔することなく、納得して前に進んでいける。誰かのアドバイスに従っても、それで失敗してしまったら、自分で決めたときよりも後悔が深くなってしまう。

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父もきっと、私が自分で悩みを乗り越えられると信じて、何も言わずじっと聞いていてくれたのだと思う。信じるということが根底にあったから、黙っていても、見守られていると感じていたのだ。

だから私も、誰かが悩みを抱えているときは「あなたなら自分で乗り越えられる」と信じ、気持ちを受け止めることに徹している。最後に「いつでも話を聞くよ」と言葉を添えて。それがきっと、相手を本当に支えることになるんだと思っている。

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