他人事じゃない、子育てと介護のダブルケア

Photo by MARIA

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子育てと親の介護に同時に向き合うことを「ダブルケア」という。結婚が遅くて子どもを産むときには自分が高齢だったり、兄弟が少なかったりという理由で、ダブルケアを経験する人は今後増えるとされている。経験者のお話をもとに、ダブルケアと付き合うヒントを探りたい。

子どもに申し訳ない

「母が90歳まで生きたら、私は62歳……。そこまで介護が続くのかと考えて、怖くなったこともあります」と話すのは、小山久子さん(60)。一緒に暮らしていた実母が認知症と診断された1994年から2007年に母が亡くなるまでの13年間、子育てをしながら母の介護と向き合った。

母は歩けなくなり、やがて寝たきりの生活を送ることに。介護が始まった当初、子どもたちは幼稚園児と小学生。子どもたちは小山さんの心の拠り所になっただけでなく、母のおむつや体位交換も手伝ってくれた。

「介護で私に余裕がなかったからか、(その後の思春期も)反抗期がありませんでした。子どもたちは『期待もプレッシャーもなくて気楽だった』と言ってくれていますが申し訳なくて……」と、小山さんは振り返る。

心の不調に気づかない

「毎日必死だから、しんどいという自覚がないまま、無理を続けていました。ある時、電池切れみたいに倒れてしまって」と話すのは、辻田典子さん(50)。義母の介護歴は20年以上になる。

義母が認知症と診断されたのは08年。結婚した当初から「認知症の初期症状では?」と思うような言動があったけれど、子育ての忙しさから目をつぶっていた。

理不尽な理由で文句を言われるなど、最初はよくある嫁姑問題のようにも思えた。そのうち、火を消し忘れたり、深夜に家族の布団をはいで「これは誰?」と確認し回ったりするなど、目を離せなくなってしまった。

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辻田さんはつねに緊張を強いられていたという。それでも、「介護は食事や排泄のお世話をすることであって、自分が介護をしているとは思っていませんでした」(辻田さん)。

そのうち、辻田さんは「夜に眠れない」「体がしんどい」と、心身ともに不調を来すようになってしまう。日中、仕事に出ている夫は義母と過ごす時間が少なく、大変さを理解してもらうのに時間がかかった。

離れて暮らしていても

辻田さんのように、自分がダブルケアに向き合っていることに気づいていない人はたくさんいる。

横浜国立大学大学院准教授の相馬直子さんは、英国ブリストル大学上級講師の山下順子さんとともに、ダブルケアについて12年から研究してきた。

相馬さんはこう話す。「調査をしていてよく感じるのが、介護は人によってそれぞれ考える内容が違うということ。育児の場合は『ここまでしていないから私は育児していない』とはなりませんが、介護の場合『身体的な介護までしていないから、私は介護しているとはいえない』という話がよく出てきます」。

昨年行った、大学生以下の子どもを持つ1000人の母親へのアンケートによると、「現在ダブルケアに直面中」の人は全体の3.3%、「過去にダブルケアを経験」した人は4.0%、「現在直面中で、過去にも経験がある」人は0.9%にとどまった。

しかし、相馬さんらが神奈川ワーカーズコレクティブ連合会と合同で実施した最近の調査では、「自分の子どもの育児と介護のダブルケア直面中」の人は全体の6%、「過去に経験あり」は15%、「数年先にダブルケアに直面」が15%もいた。

介護とは、一緒にもしくは近くに住んで、日常生活を手助けすることだけを言うのではない。遠く離れた親を気遣って、毎日のように電話で安否を確かめたり、親の心の支えとなるようまめにコミュニケーションをしたりといったことも広い意味でケア(介護)といえる。

「そこまで介護していないから、私はダブルケアの当事者ではない」というように、自分がダブルケアの当事者であることを認知していないケースが相当数あるのだという。

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内閣府も最新のダブルケア実態調査で「ダブルケア人口25万人」と推計を出した。しかし、その介護の定義は「身体的ケア」と意味が狭く、介護保険の手続きやケアマネジャーとの連絡などを行っている世帯は今回の推計に入っていない。

また最近では「ダブルケア」といっても、育児とメンタルに問題を抱える夫のケア、障がいがある子どもと持たない兄弟の複合的なケアなど、育児と介護という意味にとどまらない「ケアの複合化・多重化」を表すようにもなっている。「私たちは多重なケア関係を持って生きているのです」と相馬さん。

乗り切るコツは?

ダブルケアを経験した小山さんは、「なぜ母がこうなってしまったんだろう」「なぜ自分がこんなめにあうんだろう」という否定や怒りの「なぜ=why」から、「どうしたらうまくいくんだろう=how」へと視点を変えてみたという。そうすることで、「母にもう一度笑ってほしい」と思うようになれた。

また、ここぞという時は、子どもたちを最優先に。中学受験の際は子どもが勉強に集中できるよう、1カ月間、母を介護施設に預かってもらった。「介護、子育て、自分のやりたいこと。すべてに全力投球することも、1つに専念することもできないので、その時々の状況を考えてバランスをとることが大切だと思いました」(小山さん)。

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同じく経験者の辻田さんも、一人で抱えないで専門家に相談してみては、とアドバイスする。「介護をしている人は『まだできることがあるのでは?』と自分を追い詰めてしまう。第三者から『無理し過ぎていませんか?』『一緒に考えませんか?』と立ち止まるきっかけをつくってもらうことが大切だと思います」(辻田さん)。

支援は広がりつつある

相馬さんは「ダブルケアを自分ごととしてとらえている人は少ないが、ダブルケア当事者や支援者を中心に、言葉が広がり始めている」と話す。

そして、ダブルケアをサポートしようという動きも少しずつ増えている。横浜市の団体は、介護と子育てに向き合っている人たちが集えるような取り組みを進めている。

地域で定期的に開催する「ダブルケアカフェ」のほか、インターネット上にも「ダブルケアTalk」というコミュニティサイトを開設。当事者やこれからダブルケアに直面する人たちに向けたハンドブックも作った。

自分がダブルケアに向き合っているかも、と思った人は、少し視点を変えてみたり、上記に挙げたさまざまな支援に頼ったりすることで、心と体が楽になるかもしれない。また、「一人で抱え込むのではなく同じ悩みをもつ人と共有しながら、ダブルケアという社会の問題を発信してほしい」と相馬さんは言う。

今はまだダブルケアに直面していない人でも、それは突然やってくることがある。いざ自分が当事者になったときにどうするか、今から考えておくことも大切だ。(文/小森利絵、杉本愛)

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