私の生き方にモデルケースはない

仕事柄、いろいろなお母さんの、いろいろな暮らしを見る。当然だけれど、家庭によって状況はまったく違い、仕事との両立の仕方も、子どもとのかかわり方もそれぞれ。だからこそ、思う。氾濫する情報に流されず、「こうでなければ」という固定概念にとらわれず、自分だけの生き方を、自分らしく追い求める大切さを。

そう考えていた矢先、東京都国立市にあるNPO法人「くにたち農園の会」を取材した。そこで活動するお母さんの口から聞いた「結局、生き方に、モデルケースなんてないのかも」という言葉が、胸にストンと落ちていく。

お母さんではなく、個人として

くにたち農園の会は、役員のほとんどが子育て中のお母さん。

「子育て優先の生活をしていても、お母さんではなく、個人としてのはたらきをしたい、と思う女性は多いですよね。そういう主体的な気持ちの人に出会うと、何か一緒にやりたいなって思うんです。だって、すごく素敵な力を持っているのに、“お母さん”としか認識されていないのって、本当にもったいないですから」

「森のようちえん 谷保のそらっこ」で代表を務める佐藤さんは野遊びの達人

そう話すのは、会の立ち上げにかかわった副理事長のすがいまゆみさん(61)。「みんなで話をする中で、それおもしろそうだよね、ということを協力し合って実現につなげてきました。仕事や子育てに忙しい中でも、地域で活動したい、何か自分のやりたいことがある、という人が集まっている感じです」。

「くにたち農園の会」は2013年にまず、閉園した梨園を引き継いで畑にし、貸し農園や田植え体験などができる「くにたち はたけんぼ」をオープン。農作業をするだけではなく、未就園児親子が外遊びを楽しむための「森のようちえん 谷保のそらっこ」や、放課後の小学生がはたけんぼで思い切り遊べる「放課後クラブ ニコニコ」など子育て支援の活動も展開し、いろいろな人が集う場所として活用してきた。

つちのこやで「かっか屋」として毎週木曜日、食堂をオープンしている小林まどかさんは、ときどき「つながるkitchen」というお料理教室も開いている。

また、2017年2月に屋内拠点として初めて開設されたのが「田畑とつながる子育て古民家 つちのこや」だ。はたけんぼの近くに、広い和室や縁側、自然豊かな庭、調理施設もある古民家を借り、親子のつどいや食堂などを開いている。

「つちのこや」は和室と縁側の明るさが心地よく、定期的に親子のつどいが開かれている

こうして活動を広げてきたことで、今では運営を担う役員だけでなく、帳簿の確認などおカネまわりのお手伝いをする人、食堂で料理の補助をする人……。いろいろなお母さんたちが、自分の得意なこと、都合の良い時間を生かして集まってきている。

週に2回、ランチタイムに「つちのこ食堂」を営んでいる小湊玉さん

活動にかかわっている人たちに対する報酬は、「十分な額ではないけれど、きちんとお支払いする」(すがいさん)というスタンス。ちょっとしたお手伝いであれば、“食堂のまかない券”などが報酬になることもあるが、お互いに気持ちよくかかわれるやりとりがなされている。

活動のノウハウも共有

一方で、継続的な活動を行うには安定的な運営も欠かせない。中3から小1まで5人の子どもを育てながら「森のようちえん 谷保のそらっこ」の代表を務める佐藤有里さん(44)も、「やりたいことを続けるためには、活動資金をしっかり確保するのが大事」と強調する。

谷保のそらっこは、国立青少年教育振興機構の「子どもゆめ基金」から年間100万円ほど助成を受けている。つちのこやの場合も、現在は利用者が支払う施設利用料(大人300円、3歳以上の子ども100円)や、貸しスペースとしての利用料で運営費用をまかなっているが、今後は公的な子育て支援拠点として認可してもらえるよう、はたらきかけも続けている。

四季折々の自然を感じられる広い庭も魅力。イベントの会場になることもあり、地域の人たちがたくさん訪れる

また、「一部の仲間内で盛り上がるのではなく、広く、多くの人に開かれた活動でありたい」と言うのは、すがいさん。「子育てと自分のやりたいことを純粋に追及できる人ばかりではなく、子どもともっと長く一緒に過ごしたいけれどはたらかざるをえないお母さんもいれば、シングルマザーで家庭を守っている人もいます。いろいろなお母さんが、ここで地域の人たちとつながって、困ったときは助け合える場所にしたいんです」

夢を実現する場としても

夢を実現するための第一歩として、会の活動を活用するお母さんもいる。たとえばつちのこやの座敷で子連れOKのピラティス教室を開いたり、部屋の一角に自分の好きな雑貨や、手作りジャムを置いて販売したり。曜日限定で食堂を運営しているお母さんたちは、ときどき料理教室を開き、地域の人たちと交流している。

「つちのこや」で販売している「おへそキッチン」のジャム

「みんな自分の身の丈にあったペースで、この環境でできることを、一人ひとりが上手に、自分の生き方につなげている」。そう言うのは小1の男の子のお母さんで、同会の理事を務める小林未央さん(45)。

会にかかわるお母さんたちを見ているうち、子育てと仕事のバランスのとり方や、夢を実現させるステップは人それぞれだからこそ、モデルケースを探すのではなく、自分の道を進めば良いと勇気づけられたという。

「つちのこや」の一角で、雑貨屋さんを始めたお母さんも

子育てに、家事に、仕事に、日々、忙しいお母さんたちが、自分を大事にできる場所。だれかの真似ではなくて、自分なりのスタイルで、やりたいことをやれる場所。くにたち農園の会のような“居場所”があちこちにあれば、お母さんたちの笑顔もきっと、もっと、増えるに違いない。

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