おばあちゃんのアイデアをお母さんが一緒に形にする仕事

埼玉県中浦和駅から歩いて10分足らずの一軒家に「BABAラボ工房」の看板がかかっている。高齢者自らが仕事を生み出し、地域の人とつながりながら生き生きとはたらき続ける場所を作りたいと、桑原静さん(43)が2011年に立ち上げた制作工房だ。

おばあちゃんによるおばあちゃんのための育児グッズ

工房で制作しているのは育児グッズ。とはいえ、両親のためではなく、おばあちゃん、おじいちゃんのための“孫育て”グッズだ。

NPO法人のコンサルタントを行っていた桑原さんは、出産を機に独立。子どもが0歳のときにBABAラボ工房を立ち上げた。自らが出産し、母や祖母に育児を手伝ってもらったときに「共働き世帯が増え、孫の面倒を見るおばあちゃん、おじいちゃんも増えてきた。“孫育て”が楽になるグッズを、おばあちゃんたちの知恵を借りて作ってもらおう」と思いついたそうだ。

芝浦工業大学と共同開発で作った哺乳瓶「ほほほ ほにゅうびん」。老眼でも見やすい大きな目盛りが特徴。滑りにくくもちやすく、やけどなどの事故も防ぐ

哺乳瓶の目盛りの字が小さすぎて読みづらい、力が弱いと動かしづらい……。若い親世代用に作られた育児グッズは、祖父母世代には使いづらいこともある。そこでおばあちゃんたちからアイデアをもらって50種類以上の商品を開発した。

その一つ、首の座らない赤ちゃんのための「抱っこふとん」はBABAラボ工房の活動を支えるロングセラー商品だ。

“座布団で抱っこ”の発想から生まれた、抱っこしやすい「抱っこふとん」

これは「昔は赤ちゃんを“座布団”で抱っこしていた」というおばあちゃんのアイデアをヒントに開発したもの。ふとんが赤ちゃんの体重を均等に支えるので、腕の力が弱いお年寄りでも楽に抱っこできる。

赤ちゃんが寝たら、そのまま床やベッド、ベビーカーに下ろせばいいし、誰かにバトンタッチをするときもスムーズだ。テレビや新聞、週刊誌などでその存在を知った全国のおばあちゃん世代からの注文が途切れない。

おばあちゃん集めに苦労した

工房が稼働するのは、火・水・金の週3日、10時~16時。ミシンでふとんカバーを縫う人、ハトメを付ける人、綿を詰める人……。出来高制で、月に3~4万円稼ぐ人もいる。

工房でみんなと一緒に楽しく作業をする人もいるし、自分の体調や生活に合わせて自宅で作業する人もいる。自宅作業が中心の人も、週3日のうちどこかで工房に顔を出して、みんなと談笑したり、縫製の仕方を教えあう。ここは一つのコミュニティなのだ。

BABAラボ工房のメンバーは約60人で、半数が60~80代のおばあちゃん、残りの半数は40代前後のお母さん。皆、子育てとのバランスをとりながら工房を支えている。「おばあちゃんのコミュニティを目指していたら、なぜかお母さんがいっぱい集まっていたのです」と桑原さんは笑う。

今となってはこれだけのメンバーが集まったが最初は苦労したそうだ。

何よりもおばあちゃんを集めるための広報手段がないことが人集めの障害だった。近所にチラシを配ったり、公民館で手芸教室を開いて足を運んでくれた人にひとりひとり声をかけたりと地道な広報活動を行い、約2年かけてコミュニティを作り上げていったそうだ。

そんな中、当時子連れで活動していた桑原さんを見て、一人、また一人と「一緒にはたらきたい」というお母さんたちも増えていったという。「年老いたときにどのように生きたらいいのか、おばあちゃんたちから学びたい」「生きる希望を見出したい」など、動機はさまざまだ。

おばあちゃんが子どもを褒めてくれた

横地真子さん(41)は、5年前からBABAラボ工房ではたらいている。子どもと一緒に出勤してもいいので、小学4年生の娘も学校が終わると工房に来ることもある。

横地さんは出産を機に仕事を辞めたが、「“お母さん”だけをやることに、物足りなさを感じていた」と話す。そんなときにBABAラボ工房を知り、試しに子連れで訪れてみた。

「子どもが縫い物をしたら、おばあちゃんがとても褒めてくれてすごく嬉しそうでした。なんて居心地のいい場所なんだろう、って」(横地さん)。一人っ子で年齢や世代の違う人と触れ合う場が少ない娘のためにもこの場所がいい影響を与えてくれるのではと思ったそう。

生き生きとしたおばあちゃんの姿は、お母さんたちの希望でもある。工房では、今日もおばあちゃんとお母さんが笑顔で支えあっている。

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