子どもたちを見守りながら街をきれいにする仕事

Photo by MARIA

朝、福岡市のあるマンションのロビー。ピンクのジャンパーに身を包んだ女性が、登校する小学生に「いってらっしゃい」と声をかける。このマンションではよく見掛けられる光景だという。

子どもたちに声をかけているのは、マンションの共有部分を清掃する女性たち。本業は清掃だけれど、その傍らで街の安全・安心作りにも一役買っている。

女性たちが清掃道具を運ぶワゴン車には、大きな字で「こども110番パトロール中」というステッカーが貼られている。学校帰りの子どもたちや住民がそばを通ると、女性たちは「こんにちは!」と笑顔で声をかけるのだ。

地元のお母さんたちが声かけ

彼女たちが所属するのは、福岡に拠点を置く清掃会社「お掃除でつくるやさしい未来」(以下、「未来」)。建物の共有部分の清掃のほか、ハウスクリーニングやチャイルドシートのクリーニングも手掛ける。「清掃をしながら、子育てをしたくなるような安全安心でやさしい街を育てることも使命です」と、代表の前田雅史さんは話す。

ワゴン車には「子ども110番パトロール中」のステッカー

現在、「未来」ではたらくスタッフは75人。そのほとんどは地元で子どもを育てる20代~50代のお母さんたちだ。

「こどもSOSの車」のステッカーを付けた車はたくさんあるが、「運転しているのは“おじさん”ばかり」だと前田さんは言う。「何かあったとき、知らないおじさんよりも、〇〇ちゃんのお母さんのほうが子どもたちは声をかけやすいと思うんです」。前田さんが「えがお巡回清掃」と名付けたこの仕事の理念に共感するお母さんたちが、はたらきながら、日々子どもたちを見守っている。

前田さんが巡回清掃で大切にしているのが「明るいあいさつ」。子どもたちをはじめ、行き交う人々に元気にあいさつをすることで、「未来」のスタッフの存在を覚えてもらえるし、いざというときに頼りにしてもらうことができる。

清掃の傍ら、スタッフは地域の子どもたちを明るく見守る Photo by MARIA

3歳の子どもを持つ立川由美子さん(仮名・29)は、1年前から「未来」ではたらき始めた。「子育て中のスタッフが多いので、子どもの用事で休むときもお互いさま。シフトを調整し合いながら家族優先ではたらけるのが何よりありがたい」と立川さん。清掃は2人1組で行うことが多いので、先輩のお母さんに子育ての相談をすることもあるそうだ。

「未来」のスタッフに子育て中の人が多いのは、代表の前田さんが「あえてお母さんを集めた」から。「お母さんは仕事に対する責任感が強いし、子育て経験があるからか、後輩もきちんと育ててくれる。限られた時間の中で最高のパフォーマンスをしてくれる」と前田さんは太鼓判を押す。

子どもをおんぶしながら…

前田さんは5年ほど前から、はたらきたい意欲があるけどはたらけないお母さんを積極的に採用するように。清掃の仕事は、時間や曜日に縛られることが少なく、すき間時間を活用したいお母さんにはもってこいだ。現場へ「直行直帰」ができて、1回当たりの勤務時間は少なければ30分~1時間ほどで済む。

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子育てについての考え方や置かれた状況は、人によってさまざま。「はたらきたい気持ちはあるものの、子どもを預けてまではたらきたくない」という人も少なからずいる。そうした人のために、子連れで清掃ができる取り組みも行っているそうだ。

たとえばマンションの共有部分の清掃は、拭いたり掃いたりする作業がメインで、子連れでも負担は少ない。子どもにとって危ない場所がないかどうか、安全面を確認した物件については、子連れで清掃業務にあたってもよいことにしたという。お母さんたちにも好評で、中には赤ちゃんをおんぶしながら掃除する人もいるそうだ。

お母さんのマネをして遊ぶ子も

子どもたちにとってもいい影響があるという。「わんぱく坊主でも、お母さんが一生懸命はたらいていれば表情が変わる。親がいきいきとはたらく姿を見て子どもは多くのことを感じ、学んでいくのでは」と前田さん。子連れではたらいていると、地域の人とコミュニケーションしやすくもなるようだ。

「えがお巡回清掃」は福岡から全国へと広がりつつある。理念に共感した不動産会社から声がかかることが多く、今では関西や関東でも11人のお母さんスタッフが、子どもたちを見守りながら仕事をしている。

お母さんがイキイキとはたらき、地域の安全も守られ、街もきれいになる。えがお巡回清掃は、まさに「三方よし」の取り組みでもあるのだ。

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