“女性だけ”の町工場が社会に開ける風穴


小さなネジから人工衛星をつくる工場まで、6000以上もの町工場(まちこうば)が密集する大阪府東大阪市。ここに、女性だけで立ち上げた町工場がある。細穴放電加工専門の株式会社エストロラボ。電気によって火花を起こし、そのエネルギーで金属を溶かして穴を開ける加工を請け負う。わずかなズレも許されず、正確さと技術力を要求される仕事だ。

創業は2006年。金属加工の町工場という男性中心の社会の中で異色の存在として、代表の東山香子さんをはじめ、女性3人でスタートした。現在は、男性正社員2人を含む9人が在籍。長く仕事を続けるためのワークライフバランスに向き合う町工場として、注目を集めている。

はたらきたい思いに応える

創業のきっかけは、知人である金属加工会社社長の「女性だけの会社を立ち上げたら話題となり、業界に風穴を開けられる」というアイデア。東山さんは起業そのものに興味を持ち、その会社で1年ほど修業した後、立ち上げた。

確かな技術に定評

エストロラボは「細穴屋」という屋号を名乗り、0.1~3mmという小さな穴開け加工に特化して、技術力を向上させてきた。軌道に乗るまで数年かかったが、「女性だけの町工場」という珍しさもあり、新聞やテレビなどメディアで多く取り上げられ、受注につながった。当初は物珍しさからの依頼もあったが、確かな技術と丁寧な仕事によって継続的な取引につながり、現在では全国に1200もの取引先がある。

会社を経営するにあたり、東山さんにはある思いがあった。

「当時、身近にいる女性から『結婚や出産によって会社ではたらき続けることができない』という声を多く聞いたので、そうした思いに対応していける会社を目指すことにしたんです」

納期を守りつつ、育児中の女性が活躍できる会社を目指した

勤務体系は月21日、1日7~8時間が基本のフレックスタイム制。女性社員は全員育児中で、保育園の送迎や学校行事など、家庭の都合を考慮しながら、勤務計画を決めている。

しかし、製造業は効率が重視され、納期の厳守が鉄則。「ワークライフバランスの尊重」と言葉で表現するのは簡単だが、従業員が子どもの病気やケガといった理由で急な休みを取らなくてはいけない場合、納期に間に合わなくなる恐れがある。

こうした矛盾に対処するべく、機械の台数よりも人員を多く雇ったが、全員が出勤すると今度は人手が余ってしまう。そこで、本業以外にも仕事の範囲を広げ、始めたのが自社商品『エストロロボ』の製造。ボルトやナットに穴を開けてビーズ等で組立てたミニチュアのロボット型雑貨で、オンラインショップで販売している。納期に縛られないうえ、技術の向上にも役立つ仕事だ。

組立てワークショップなど展開をみせる『エストロロボ』

創業時のメンバーが介護を理由に退職したことも、会社を変えていくきっかけとなった。「今後は子育てだけでなく、介護と仕事の両立も課題になる」と意識し、工場以外の場所でもできる仕事がないものか模索し始めた。2016年には北欧雑貨のオンラインショップ『Nisse og Misse(ニッセ オ ミッセ)』をスタート。結婚を機にノルウェーに移住し、役員として在籍している社員が仕入れと運営を行い、工場では保管・配送を担う。

放電加工という業態や場所にさえこだわることなく、重点を置くのは「在籍する社員がいかにはたらき続けられるか」だ。

多様な人が、多様にはたらく

女性が会社で長くはたらくためには、「女性自身が意識を変えることも重要ではないか」と東山さん。「共働きなのに、子どもに何かあった時は『女性が休むもの』と女性自身が思っていることが多いのは少し疑問です。一方で、子育てをしていない社員が休みを取りにくいという現状もあります」。

現在、中学3年生と小学5年生の子どもがいる山本雅代さん(40)は、エストロラボに入って意識が変わった一人。最初は「配偶者控除の範囲内で」と思っていたが、仕事を始めてから考えが変わった。「自分が加工の責任者で、仕事ぶりが直接、結果や評価につながる」(山本さん)。より責任感が強くなり、正社員への道が開けた。

目指すは「社会の縮図」

東山さんには、別の意味で心当たりがあった。創業から6年ほど、独身は東山さんだけだったため、みんなが退社した後、納期の迫った仕事を1人で担う日々が続いた。

「夜や休日に対応するため、2012年に男性を雇いましたが、『男性だから子育てはしない』というのはおかしい。子育て中の人も、子どもが成人した人も、独身の人も、障がいのある人も、社会の縮図的に多様な人たちがはたらく会社にしたい」と、東山さん。ひとまず従業員を30人ほどに増やし、それぞれが補完し合って無理なくはたらくことを目指す。

社会が様々に変化している今、「女性だから」「男性だから」「子育て中だから」という枠を超えて、はたらく方も会社側もそれぞれができることをやっていく。東大阪の町工場エストロラボでは、新しいはたらき方のスタイルも日々練磨されているのだ。

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