一等地に店を持ちたい人を後押しするサービス

Photo by MARIA

都内にあるオフィス街の一角。週に3日、11時半~13時半に登場するブルーのキッチンカー「マルコ」。ポークを使った弁当が人気で、ビジネスマンが列を作る。

マルコのオーナーは、3人の子の母でもある粕谷亜耶さん(27)。港区や品川区のオフィス街を中心に、キッチンカーでの弁当販売を始めたのは約半年前。もともと料理が得意だった粕谷さん。多くの人に手料理を味わってもらいたいと思ったのが起業のきっかけだった。

マルコのキッチンカー

キッチンカーで売るとき、最も重要なのは“出店”する場所。人が集まる場所を安く確保するにはどうしたらよいか考えていたとき、「軒先ビジネス」(以降、軒先)を知ったという。

価格交渉もできる

「軒先」は、ビル前の使っていないスペースや空き店舗など、わずかな遊休スペースを貸し出してくれるシェアリングサービス。空いている土地やスペースを「貸したい」人と「借りたい」人をつなぐ。

ウェブサイトで会員登録後、運営会社の審査を通過すればすぐに利用できる。「貸したい」人は自由にレンタル料金を設定でき、「借りたい」人はメッセージ機能を使って価格交渉をすることもできる。運営会社には手数料として、レンタル料金の35%が入る仕組みだ。

「長期契約が決まるまで貸したい」「店の敷地で使っていないスペースを貸せば集客効果も見込める」「狭いスペースを誰かに使ってもらえるなら」……。

さまざまな理由で「貸したい」という人が多く、現在の登録スペース数は2500カ所以上。1日単位から、店やイベントを開くことができるとあって、累計1万人以上が借りている。リピート率は80%に上るそうだ。

ビルやマンション前の一角も貸しスペースになる

粕谷さんが「軒先」を使うのは「安くて、気軽に予約できるから」。弁当の値段は1個あたり650円と高くないし、ガソリン代や調理道具などの費用もかかる。なるべく場所代を抑えたかった。

ほかの貸しスペースだと、出店料は店の売り上げが上がれば上がるほど高くつくパターンが多い。「軒先」の出店料は売り上げにかかわらず一定。粕谷さんの場合、お昼どきの約2時間で2000~3000円ほどで済む。

高い出店料から思わぬ収穫

「軒先」がスタートしたのは、今から約10年前の2007年。立ち上げたのは、当時“主婦で妊婦”だった西浦明子さん(47)。「子どもが生まれたら、趣味の南米雑貨を販売したい」と考えていた西浦さんだが、都内の商店街で貸しスペースを一週間借りようとしたところ、4畳分くらいの広さで週に21万円もかかることがわかった。

「主婦がビジネスを始めるには高すぎる」(西浦さん)と幻滅したものの、貸しスペースのニーズが高いことに気づけたのは収穫だった。高額なレンタル費用にもかかわらず、その貸しスペースは半年先まで予約がいっぱいだったのだ。もっと気軽に貸し借りできる仕組みを作りたくて、西浦さんは「軒先」を立ち上げた。

個人の借り手は30~40代女性

借り手の8割は、自社イベントなどに使いたいという電鉄会社など企業のお客さん。残り2割は個人のお客さんで、30代から40代くらいの女性がほとんど。キッチンカーなどの場合、路上だと道路使用許可が必要になるけれど、私有地で許認可はなくていい。テーブルとイスも置けば、“ランチタイムだけのレストラン”だって運営できてしまう。

企業のお客さんが多いのは、08年のリーマンショックがきっかけだったという。“遊ばせて”おいたスペースを少しでも収益化したい、という企業が増えたのだ。大手企業によるスペース登録が増え、09年にはビジネスコンテストでも受賞した。

主婦が活躍できる土壌に

ただ、「本当はもっと個人ユーザーに利用してもらいたい」と西浦さんは思っている。それは、「軒先」を始めたときの「主婦でも気軽にお店を始められるように」という思いが今もあるから。

「軒先」を利用して活躍する主婦は多く、つい先日も、スターバックスではたらいた経験のある30代の女性が、夫と一緒に移動コーヒー店を開きたいと相談してきたところ。これまでに、空き事務所で英会話教室を開いたり、マンションの屋外空きスペースを使ってアクセサリーを売ったりという事例もある。「お母さんたちの起業を手助けできていることがうれしい」(西浦さん)。今後は個人向けの起業スクールも開くつもりだ。

「軒先」を使えば、起業するときの初期費用と失敗のリスクを極力抑えられる。「店を持ちたい」「まずは小さく事業を始めてみたい」と思っている人は、ここから一歩踏み出してみるのもいいかもしれない。

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