個人のお客さんと相談しながら服を作る仕事

「世界に一つだけの服を縫製職人にお願いできるサイト」で紹介したクラウド縫製サービス「nutte(ヌッテ)」の登場は、ファッション業界に携わる人の“はたらき方”にも変化をもたらしている。

フリーのパタンナーである炭屋有希子さん(ヌッテの登録名はjdvpattern)は、ヌッテを通じてはたらき方を変えた一人。0歳から小学1年生までの3人の子どものお母さんでもある。

お客さんの声を聞きたい

レディースやキッズ向けの服が得意な炭屋さんは、デザインの相談にも親身にのってくれるとあってヌッテの中でも人気の職人さん。炭屋さんはパタンナーとしてアパレルメーカーに3年間勤務後、フリーに転身し今年で8年目となる。その間に結婚、出産を経験し、2017年5月には自宅近くにアトリエも構えた。平日は子どもたちを預けてフル稼働、土曜日も子連れで出勤する。

炭屋有希子さん

パタンナーの仕事は、デザイナーが作成したデザイン画を実際に服にするための「型紙(パターン)」を作ること。着心地やシルエットも考えつつ、生地をどうカットするのがよいか、縫製はどうするべきかを決めている。パターンの良しあしで、シルエットや服の着心地が変わる。

もともとオーダーメイド服を作るのが夢だった炭屋さんは、就職したときから独立を考えていたという。「メーカーでは、デザイナーが求めるものを作るのが“仕事の正解”。でも実際におカネを払って服を着るのはユーザーさん。直接声を聞きながら服作りをしたかったのです」(炭屋さん)。

なぜうまくいかなかった?

炭屋さんは夢を実現するため、就職先を選ぶときからプランを立てていたそうだ。オーダーメイドの技術が身につく職場で「ゼロからパターンメイキングする力」(炭屋さん)をつけ、CAD(コンピュータを用いた設計)や手作業でのパターン起こしと、服作り全般にたずさわった。

3年間の経験を積み、満を持して独立したつもりだったが、ビジネスがすぐに軌道に乗ったわけではなかった。最初はCADを購入する資金がなく、知人から受ける縫製の仕事がほとんど。売り上げも会社員時代の給料には程遠かったそう。

「独立した翌年に出産したので、売り上げが伸びなくても“今は育児休暇中だ”という気持ちでやっていました」と炭屋さんは振り返る。長男が2歳になるまでは保育園の空きがなく、子連れで打ち合わせに行ったり、おんぶしながら縫製したりという毎日。縫製の仕事がある程度回ってきたときにCADを導入し、パタンナーとしての仕事も受注するようになった。

得意を生かせるお客さん

そんなとき、炭屋さんは偶然ヌッテを知った。“ユーザーに近いところでもの作りをする”という自分のスタイルに合っていると感じ、すぐに登録した。「ヌッテには、デザインイメージのある服の再現や特殊なお直しなど、パタンナーである私の“得意”を生かせるユーザーさんがたくさんいました」(炭屋さん)

写真やイラストをもとに「こういう服を作って」とお願いされることが多い。「気に入っていたが販売終了していて、もう手に入らない服を再現してほしい」「オリジナルユニフォームを作ってほしい」といった要望もある。生地見本と仮縫いを送ってチェックしてもらい、パターンの修正を重ねてから縫製、納品するのだが、重要なのはユーザーとのやりとりだ。

ネットを通じてのやり取りは、対面よりもヒアリングが難しくなりがち。炭屋さんは密なコミュニケーションを心がけ、ときにはユーザーの要望をかなえるためのアドバイスもする。「丈をもっと長めにとか、生地はこっちのほうがいいねとか、ヒアリングしながら服ができていく工程がとても楽しいんです。私だけでなくお客さんもその工程を楽しんでくださるのがうれしいですね」(炭屋さん)。こうしてできた服は世界に一つのオリジナルだ。

ヌッテでは舞台衣装やぬいぐるみのコスチュームなど、炭屋さんがこれまで経験したことのないような依頼も多い。舞台衣装は普段着であるリアルクローズとは違った視点で作らなければならないといい、「ゆとりの取り方や、簡易で美しく見せる仕立て方など、学びが多いです」と炭屋さんは話す。最近はヌッテの仕事が6割、直請けの仕事が4割ほどで、ヌッテの売上げだけでも30万円近くになった月もあるそうだ。

夢を追う誰かにも伝えたい

「ゆくゆくはアルバイトとして学生を雇いたい」と話す炭屋さん。ファッション業界を目指す学生の多くは、アパレルメーカーに入って、デザイナーやパタンナー、販売といった仕事に就く。しかし炭屋さんは、「もっとユーザーの近くで服作りをすることもできる」と、学生たちに伝えたいという。

ヌッテが登場したこともあって、炭屋さんのような“ユーザーに近い職人”はどんどん増えている。オーダーメイドが私たち消費者にとっても身近になると同時に、ファッション業界に携わる人のはたらき方も変わっている。

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