港町の主婦と一緒にネコのおやつを作る仕事

高知龍馬空港から車で約1時間。美しい海に面した人口100人ほどの小さな集落・中土佐町矢井賀(やいが)。ここで、獲れたての魚を使ってネコのおやつを作る「港のネコとおばあちゃんプロジェクト」が進んでいる。

土佐湾の産物である新鮮な魚を、地元の主婦が調理しおやつにする。おやつは朝獲れの魚を三枚におろして一口サイズに切り分け、煮たり焼いたりして真空パックしたもの。おやつは東京の猫カフェやオンラインストアで販売する予定で、一商品につき100円が、ネコの殺処分を減らすために保護活動を行う団体に寄付される。

町の人から猛反発?!

プロジェクトを立ち上げたのは、“主婦”の井川愛さん(40)。昨秋、住み慣れた東京から、縁もゆかりもない矢井賀へ愛猫のオルカとともに移住した。地方へ移住する人は増えているけれど、地元の人と一緒になってビジネスを立ち上げるケースは珍しい。

38歳のとき体調を崩して司会業を離れた井川さんは、「第二の人生では社会貢献がしたい」と思いを募らせていた。もともとネコが大好きだった井川さんは、ネコの殺処分に心を痛めていた。「何かできないか」と思って周囲の人に相談するうちに、プロジェクトの骨格が固まっていったという。

井川愛さんと愛猫のオルカ

海がきれいな矢井賀に、井川さんは一目惚れ。「高知人の明るくてざっくばらんなところも魅力的でした」(井川さん)。大学の社会人コースで起業の勉強をしていた井川さんは、中土佐町役場に自分の考えを伝えてみた。そうすると「地域おこし協力隊」に任命してくれることに。

2016年10月、夫を東京に残してオルカとともに移住。高知のビジネスコンテストで最優秀賞も取った。しかしいざ矢井賀でプロジェクトを進めようとすると、思いもよらない反発に遭ったという。

なんと町では、井川さんのプロジェクトが「猫を増やして矢井賀を猫島にする」との噂が広まっていたという。野良猫に作物をダメにされた農家や、網を荒らされてきた漁師は、実はネコが大嫌い。「ネコを増やすなら村八分だ」と井川さんは痛烈な言葉を浴びることに。

誤解を解くため、「むしろ野良猫をむやみに増やさないための取り組みなんです」と直接話して回ったり回覧板に情報を載せてもらったりして、少しずつ理解してもらったという。

地元の人に助けられる

移住から半年が経ち、井川さんはすっかり町に溶け込んでいるそうだ。「住民と心を通わすうちに、隠れた“ネコ好き”も多いことが判明したんです」と井川さん。ネコが好きな地元の主婦とともに、週1回、2~3時間集まって猫のおやつを作っている。

地元の主婦と一緒になって作る

もともと矢井賀は、女性の就業率が全国的にも高い地域。仕事をお願いした主婦たちは、パワフルで頭の回転が速く、はたらき者ばかりなのだそう。

「地元の人のお役に立てればと思って来たのに、実際は頼り甲斐のある皆さんに助けられてばかり。困ったことがあればすぐに相談しています」と井川さんは話す。気さくで懐が深い井川さんの熱意が地元の人に伝わったのだろう。

手際よく調理する地元の主婦

お願いしている作業は、魚をさばいてから「煮る」「焼く」といった簡単な調理。正直、矢井賀の主婦にとったら朝飯前。作業のたびに、「これでおしまい!? 物足りないねえ…」と言われてしまうほどだ。

ネコは鮮度に敏感

ネコ専用の手作りフードはまだ世の中に少なく、井川さんは「ビジネスとしてもっと広げていける」と考えている。一年後の事業化を目指し、今は試作とテスト販売を繰り返している。東京には心強いパートナーである、猫カフェ「CAT’S INN TOKYO」店主の藍智子さんがいて、13匹のネコに試作品を食べさせ、反応を報告してくれる。


ネコは人間が想像する以上に鮮度に敏感。どんなに新鮮な魚でも、一度冷凍してから解凍したものは好まない。

そしていくら鮮度がいい魚でも、ペットフードの味に慣れたネコは、井川さんらの手作りおやつに見向きもしないことも。オルカも最初は、切り身の状態の魚に戸惑っていた様子だったが、少しずつ魚をほぐして食べさせているうちに徐々に慣れてきたそうだ。今では「お手」をして催促するまでになった。

試作品はネコが試食

今後は、プロジェクトメンバーと一緒にネコのおやつを作るツアーを組むなど、観光に結びつく企画も考えているそうだ。「ネコのおやつ作りをきっかけに地方に人を集める仕組みを作って、地方を活性化させたい思いを持った人にノウハウを託したい。矢井賀からネコのおやつの取り組みが日本中に広まっていくことが夢です」と井川さんは話す。

移住した土地の産物を使って仕事を作った井川さん。地元の人と打ち解けたことで、田舎暮らしの醍醐味がまた一つ増えた。

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