子ども服を販売しながらプレママを手助けする仕事

慣れない手つきで、ていねいに赤ちゃん人形の腕に肌着の袖を通そうとする夫婦。その横でスタッフが、「赤ちゃんの腕ではなく、肌着の袖を引っ張るようにして着せてくださいね」と優しく声を掛ける――。

これは子ども服ブランド「ミキハウス」が開いている「プレママ・プレパパセミナー」。初めての出産を迎える“両親”向けに、沐浴の仕方や肌着の着せ方、母乳やミルクの与え方などを伝えつつ、子育て経験のある専門のアドバイザーが子育ての不安に耳を傾ける。全国の店舗やイベント会場で、年間およそ4万人が受講している。

店舗で開催するセミナーの予約枠は1回当たり2組。ゆっくりと話ができるよう1時間をとり、ソファでリラックスして話せる環境を整えている。

相談に乗るのは、ミキハウスの子育てキャリアアドバイザー(KCA)。KCAは、1年間の研修プログラムに参加し、妊娠中の人や赤ちゃんを持つお母さんの接客スペシャリストとして認定されたスタッフ。普段、接客スタッフとしてミキハウスに勤める約1800人のうち、210人ほどがKCAの資格を持っている。その多くが、子育て経験のあるアルバイトスタッフだ。

自分の失敗が誰かの役に立つ

桜ヶ丘京王店ではたらく長谷川奈津美さん(34)もKCAの一人。6才の子を持つ長谷川さんは子どもが2才のとき、ミキハウスで販売の仕事を始めた。子育てをしながら週3~4日、一日当たり5時間ほど、アルバイトとして勤めている。

婦人服の販売経験があった長谷川さんはもともと子ども服に興味があり、子育て経験が強みになると思ってミキハウスを選んだのだそう。ただ、お客さんと触れ合ううちに、より仕事の幅が広がるKCAになりたいと思ったという。

長谷川奈津美さん

「私自身、出産前は同じように不安を抱え、産後もベビーグッズ選びでたくさん失敗してきました。せっかくお店に来てくれるプレママに、自分の失敗談も伝えながら役に立てればと思うようになったのです」(長谷川さん)。子育てに“正解”はないから、自分の経験を押し付けないよう気を付けながらアドバイスしているそうだ。

ミキハウスの集客を支える

日本で生まれる赤ちゃんの数は毎年減っているけれど、ミキハウスの売り上げは2010年以降、前年を上回って順調に増えている。中でも0歳~2歳を対象とするベビー部門の売り上げは2015年度から2年連続で前年を20%も上回った。

プレママ・プレパパセミナーではオムツ交換の体験も

ミキハウス広報部の小川佳宏さんは、「KCAの存在が大きいのではないでしょうか」と話す。「プレママ・プレパパセミナーでお客さんの不安を解消したり、来店してもらったときに相談できる環境を作ったりしたことが、お客さんの信頼につながったのだと思います」(小川さん)。2017年のセミナー参加者は、前年比およそ2倍となる8万5000人を見込んでいる。

核家族化が進んだこともあって、おじいちゃん・おばあちゃんが近所にいないお母さんは多く、子育て経験者から話を聞く機会は昔と比べて減っている。ネットに載っている情報も有象無象でどれを信じていいのかわからない。そんな中、ミキハウスのKCAはお母さんの心強い味方なのだろう。

子育て経験がキャリアになる

ミキハウスでは、子育て経験を「大切なキャリア」ととらえているそうだ。店舗では、子どもの体調不良などの緊急事態にも柔軟にシフトを調整するなど、お母さんスタッフがはたらきやすい体制が整備されている。自宅近くの店舗ではたらきたい人のために、直近はスタッフを募集していなくても、求人募集がかかったときにお知らせしてくれる「登録制度」もある。

KCAの仕事は、子育て経験を生かすにはもってこい。ミキハウスでは、すでに販売スタッフとしてはたらいている人の中からKCAになりたい人を募集する。店長による現場指導と接客研修、レベルアップ講習会でのレポート提出を経てKCAになるという仕組み。抱っこひもを実際に装着しながら模擬接客をするなど、講習会のテーマは毎回変わる。

KCAになると年に3回、ベビーグッズについて学ぶ勉強会にも参加できる。肌着やベビーべッドなどお客さんが興味を持ちそうなテーマをもとに、月齢に合ったグッズの選び方や使い方、トレンドを学ぶことで、より自信を持ってお客さんと接することができるそうだ。

「プレママ・プレパパセミナーに来たお客さんが、出産した赤ちゃんを連れて会いに来てくれることがいちばんうれしい」と長谷川さん。KCAは“販売スタッフとお客さん”という関係を超えて、親戚のような近しい存在としてお母さんたちを応援できる仕事なのだ。

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