5日間の“修業”でオープンできるパン屋さん

未経験者でも、5日間学べばパン屋さんをオープンできる――そんな驚くような話を実現させる取り組みがある。

「リエゾンプロジェクト」(リエプロ)は、1日に100万円以上を売り上げる岡山の人気ベーカリー「おかやま工房」代表・河上祐隆さんが2009年に始めた小規模ベーカリー開業支援だ。このプロジェクトを通じ、これまで130のパン屋さんがオープンした。

FCよりも一国一城の主

最近のパン人気とは裏腹に、後継者不足でパン屋さんは減り続けている。そんな状況を危惧した河上さんが、再就職支援の一環として編み出したのがこのプロジェクト。「誰でも」「簡単に」「気軽に」始められるという点にこだわっている。

フランチャイズ(FC)ではないというのもウリだ。「FCだと、本部は儲かるが店舗は割に合わないというケースが多い。一国一城の主になって好きなことを好きなようにやったほうがずっと楽しい」(河上さん)。

リエプロの開業支援は、研修とオープン前後のサポートが中心になる。研修はたったの5日間。1日目はパン製造の一連の流れを座学で学び、2~4日目は20種類のパン製造の実技をみっちりと学ぶ。最終日は接客とレジ練習、経営についての講義を受ける。

研修会場は東京、大阪、岡山、札幌にある

研修後は、備品の選定から店舗周辺の競合リサーチ、店舗でのパン製造の指導まで、リエプロにサポートしてもらう。開業の前後にも再びパン製造の研修があるほか、無料の電話相談や定期的な勉強会があるのも心強い。オープンまでにリエプロを通じてかかる費用は1125万円ほどだ(店舗の賃料などを除く)。

職人技をすべてなくした

長年修業してはじめて開けるはずのパン屋さんがこんなに簡単に開けるのはなぜなのだろう。

その理由は、「製造工程から“職人技”をすべて排除した」(河上さん)ことにある。

実は機械の進化で、職人技が求められる場面は減ってきているそうだ。パン焼き機一つとっても、昔であればどうしても“職人の感覚”が必要だった。今の機械は温度が一定で正確。製造工程をマニュアル化しやすくなったという。

1種類の粉、5種類の生地で、さまざまなパンが焼ける

「小麦粉」にも秘密があった。一般的なパン屋さんでは、フランスパン、食パン、メロンパンなどパンの種類によって小麦粉を使い分ける。だが、リエプロのお店で使う小麦粉は、5種類の北海道産小麦をブレンドしたオリジナルの粉、1種類だけ。正確に計量するだけで、どんな人でもどんなパンでも作ることができる“魔法の粉”だ。

最後は、生地のシンプル化。一般的なベーカリーでは、生地を15種類用意するところ、リエプロでは、生地のパターンを、「ホワイト生地」「菓子生地」「くるみ生地」「クロワッサン生地」「天然酵母生地」に分け、この5種類の基本を習得すれば、150種類のパンが焼けるマニュアルを開発した。

勉強会で磨く経営スキル

16年5月、広島県竹原市にオープンした「恵みパン工房RyuRyu」もリエプロで学んで開いた店の一つ。オーナーの龍王恵美さん(50)は、もともと自宅で友人や知人にパン作りを教えていた。3年前に夫を亡くし、一念発起、自宅のリビングとガレージ部分を改造し、パン屋さんをオープンした。従業員は5人で、全員が自宅で教えていたときの生徒たちだ。

リエプロの力を借りた理由は「製造と経営はまったく別もの」だと考えたからだそう。パン作りを教えていたときは、いくつかのパンを丁寧に作ればよかったが、商売となると、一度にたくさんの数を焼かなければいけない。

また、パンは“生もの”なので焼いた当日に売り切らなければならない。「経営ノウハウについて学びたかったし、開業後のフォローもあるので心強いと思った」と龍王さんは話す。

「恵みパン工房RyuRyu」オーナーの龍王恵美さん

開業後のフォローの一つであるリエプロ主催の勉強会には、毎回、全国から20人くらいのオーナーが集まる。オーナー同士の交流が図れるほか、店舗の売り上げや成功・失敗例、抱えている問題について発表し合う。龍王さんも積極的に参加し、経営スキルに磨きをかけている。

龍王さんは、高校生と小学生の子どもを育てるお母さんでもある。子どもとの時間をできるだけ持つため、営業時間は10時から16時まで。とはいえ、毎日250~300個のパンを焼くのでパンの仕込みは朝5時から始まる。仕込みの前に子どものお弁当や朝ご飯を作るため、朝4時に起床する日々だ。

それでも、「一緒にはたらく仲間やお客さんとの出会いはかけがえのないもの。もともといつかは自分の店を持ちたいと思っていたので、仕事が生きがいになっている」と龍王さんは話す。

ハレタルの読者の中にも、パンを焼くのが好きだという人がいるだろう。リエプロで開業する道ならきっと、一歩を踏み出しやすいはずだ。

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