お母さんスタッフに活躍してもらうためのヘアサロン

Photo by MARIA

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美容師にあこがれてヘアサロン業界に飛び込む女性は多いけれど、その舞台裏は意外と知られていない。夜遅くまではたらかなければならないサロンが多く、土日はなかなか休めない。結婚や出産のタイミングで辞めてしまう人も少なくない。

こうした状況を見直そうと、お母さんスタイリストが無理なくはたらける仕組みを取り入れるサロンが少しずつ増えてきている。その一つが、川崎市・鷺沼にある「apish COLOR TERRACE」(アピッシュ カラーテラス)だ。

育休明けスタイリストの受け皿

apishは青山や銀座などに7つの店舗を持つ、従業員約100人のヘアサロングループ。カラーテラスは、2015年、カラー専門のサロンとしてオープンした。実はこのサロン、育休明けのお母さんスタイリストのための店舗でもある。

店長の渡辺梨沙さん(35)は5歳と2歳の子どもをもつお母さん。出産前はたくさんの指名をもらいながらバリバリはたらいていた。育休後、出産前と同じイメージで復帰したところ壁にぶつかったという。

渡辺梨沙さん

子育てをしながらはたらくスタイリストの渡辺梨沙さん

保育園のお迎えがあるから、指名の予約は午後4時までしか受け付けられず、日曜日は出勤できない。渡辺さんについてくれたお客さんは仕事帰りや週末に来店する人が多かったため、はたらける時間とお客さんが来店したい時間が合わなかった。

子どもが小さいうちは急病も多く、急な休みをもらうたびにスタッフやお客さんに謝らなければならなかった。指名してくれたお客さんもだんだん離れていく。「子どもがいちばん大切なはずなのに、熱が出るとストレスを感じてしまって……。そんな自分がイヤでたまりませんでした」(渡辺さん)。

2人目の子の育休中は、仕事はしたいけれど不安でたまらなかったそう。そんな時、カラーテラスがオープンすることになった。実はこの頃、渡辺さんのほかにも育休明けのスタイリストがいた。そうしたスタッフが無理なくはたらけるよう、“お母さんスタイリストの受け皿”としてつくられたのだという。

ヘアカラーに特化

カラーテラスには子育て中の女性がはたらきやすいさまざまな仕組みがある。まずカラー専門店なので、カットはしない。ヘアスタイルには流行があり、カットの仕方もそれに合わせて変わっていくため、1年でもブランクがあるとカット技術に不安を感じる人が多い。一方、ヘアカラーならつねに最新の流行を追わずにすむため、育休明けでも安心してはたらける。

また基本的に指名制は取らず、急な休みでもほかの店舗からスタッフが派遣されるような仕組みになっている。こうした仕組みが整っているので、子どもの発熱などで休むときもストレスが少ないという。

カラーに特化しているので育休明けでも安心してはたらける

カラーに特化しているので育休明けでも安心してはたらける

営業時間は朝9時半から夜7時までと一般的なサロンよりも短く、日曜日は休みだ。勤務はシフト制でスタッフの希望が優先されるので、保育園のお迎えに間に合うよう夕方に帰ることもできる。渡辺さんは週5~6日、朝9時から夕方4時半まではたらくことが多く、週に1日は「渡辺さんでなければ」というお客さんのため、青山や銀座の店舗でカットもしている。流行のカットやカラーを、スタッフやお客さん、街そのものから学ぶ大切な時間にもなっているという。

営業時間の短さは、“セルフブロー”でカバーしている。カラーとシャンプーはスタッフが対応し、その後はお客さん自身が仕上げるというシステム。1人のお客さんにかける時間を短縮し、回転数を上げるようにしているのだ。ブローがサービスされない分、価格は他の店舗よりも低めだ。

条件が多いように思えるが、お客さんのほとんどは主婦。平日の昼間に短時間で仕上げたいという人が多いので、カラーテラスのシステムはむしろお客さんのニーズに合っている。リーズナブルな価格も好評だ。

「20代から70代と幅広い年代の方がいらっしゃるので、刺激を受けることも多いです」(渡辺さん)

主婦のお客さんを大切に

お母さんになったことで見えてきたことも多いそうだ。以前は、家事や育児で忙しく時間がないというお客さんに共感しづらかった。「今は、主婦にはいかに時間がないかを実感しています。そんな中で来てくださるお客様を、より大切にするようになりました」(渡辺さん)。

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主婦のお客さんにも寄り添えるようになった

お母さんならではのアイデアでグループに貢献もしている。子連れのお客さんに保育士の託児をサービスする「キッズ&マザー ハッピースマイルデー」や、ヘアメイクとカメラマンによる家族写真の撮影イベントを提案し、実現させた。子どもが生まれると“おしゃれな”ヘアサロンから足が遠のく人も多いが、こうしたイベントがサロンとお客さんとのつながりを保つきっかけにもなるという。

「はたらける時間が制限されたり、急なお休みが増えたりと、お母さんになったことでマイナスになったこともありましたが、今はよかったと思っています。周りからも、仕事の幅が広がった、期待していると言われるようになりました」と渡辺さん。お母さんスタイリストだからこそできることは、まだたくさんありそうだ。

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