待機児童を持って自ら保育園と仕事を作ったお母さん

Photo by MARIA

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2月は多くの自治体で、認可保育園の申し込み結果が届く時期。その知らせは、小さな子どもを育てながらはたらきたいお母さんにとっては、運命を左右すると言ってもいいかもしれない。「入れなかったらどうしよう」と大きな不安を胸に何事も手につかない日々が続く。

東京都墨田区に住む宮村柚衣さん(36)も、今から3年前の今頃は同じ立場にいた。そして、届いた知らせにうなだれていた。応募したすべての認可保育園に入れなかったのである。いくつもの認可外保育園に電話をかけたが、いずれにおいても「キャンセル待ち30番目」といった状況だった。

ところがその後、宮村さんはどうしたか。「保育園に入れないのなら自分で保育園を作ってしまおう」と考えたのだ。宮村さんが地元に作った「ちゃのま保育園」がオープンしたのは、そう思い立ってから8カ月後、2014年10月のことだった。

保活の失敗が起業のきっかけ

かつて司法書士事務所で正社員としてはたらいていた宮村さんは、妊娠を機に退職。年子の育児に追われる2年間を過ごした後、そろそろ本腰を入れてはたらきたいと就職活動を見据えて保育園入園を申し込んだのだ。ここで初めて厳しい状況を知る。「待機児童という言葉はどこかで聞いていたのですが、保活の重要性については本当の意味でわかっていなかったようです」(宮村さん)。

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地方にいる両親を頼ることもできない。子ども2人を保育園に入園させることができなければ、再就職なんて望むべくもない。そこで、まずは自分の子どもを預ける場所を作ってそこではたらこうと考えた。そうすれば、仕事も子どもの預け先も同時に確保できる。

宮村さんには、司法書士事務所に勤務していた頃、新しい事業所を立ち上げた経験がある。このときの経験を強みに、貯金を元手に金融機関からの融資を受けて準備を進めた。

子連れで準備に駆け回る

子連れで物件を探して回り、開業に当たっての手続きなどは保育園専門のコンサルタントからアドバイスをもらった。自身の両親が奈良で保育園を運営していることもあり、保育園は身近な「事業」だった。「皆さんと違うことと言ったら、私は保育園を作ることができると知っていたこと」と、宮村さん。

保育士はハローワークで募集。保育士の資格を持つ子育て中のお母さんに限定したところ、30代後半~60代前半という幅広い年代の女性たちが集まった。その全員がはたらきたいと思いながらはたらくことができていなかった潜在保育士だ。

保育はビジネスでは回せない

開園は2014年10月。準備はスムーズに進んだものの、開園後に思わぬ課題が出てきた。当初は宮村さんが園長に就任したが、やがて園の運営方針をめぐって保育士との間に溝ができていることに気づく。

保育士は子どもの世話を何よりも優先させる

たとえば、子どもの世話をしているときにお母さんが迎えに来たら、宮村さんはお母さんへの対応を優先する。ビジネス視点で考えれば、優先するのはクライアントであるお母さんなのだから当然だ。ところが、保育士は違う。お母さんが来ても子どもの世話を優先するのだ。こうしたすれ違いがあらゆる場面で見られるようになった。

宮村さんは、司法書士事務所の立ち上げ経験と、その新しい事務所で成果を出すことができた業務効率化の手法をそのまま保育園の運営に取り入れようとしていたのだ。「保育は福祉。ビジネスではないことに気づいて、考え方を180度変えました」(宮村さん)。

よりよい保育が第一

そこからは、現場から身を引き、よりよい保育をするために何が必要かを第一に考えるようになった。「よい保育」を優先すれば赤字になる。しかし、保育士の意見に耳を傾け、まずはお母さんが安心して預けられるように保育の質を上げることから始めたという。あえて保育士の人数を増やし、備品もよいものをそろえた。経営者としての立ち位置を保持しながら、自身も勉強し、保育士資格も取得した。

すると、待機児童が問題となるなか、わざわざ無認可保育園であっても預かる場所を作ってくれ、保育の質さえ上げようとしてくれているというクチコミが墨田区に届き、区の保育コンシェルジュが見学に訪れるようになった。

保育士の人数を増やし備品もよいものをそろえた

2016年には、子ども・子育て支援新制度の下、小規模保育園として区の認可を受けることに。公的な資金補助も入って経営は安定し、宮村さんの給料も出るようになった。現在は、家庭の事情で時短勤務の職員もいるが、9人の職員全員を正社員で雇用している。

「保護者の方や園で働く職員と話すなかで、楽しくはたらく女性が増えればいいという思いを強くしています」と宮村さん。園の運営を通して、自分が得意とするのは、効率的なシステム作りだということがわかったという。今後は、女性が楽しくはたらくための仕組み作りに力を入れていきたいという。

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