自分の街ではたらくための“ママインターン”

Photo by MARIA

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「子どもに何かあったら、すぐに駆けつけられるよう職場は近い方がいい」「子どもが学校や幼稚園に行っている数時間だけはたらきたい」――そんなお母さんたちの願いをかなえるため、「自分が暮らす街ではたらく」ことを目指して職場体験をする取り組み「ママインターン」が広がってきている。

名前のとおり“インターンのママ版”で、中小企業向けに産育休取得のコンサルティングサービスなどを行うNPO法人Arrow Arrow(東京都)が手掛ける。原点は、震災のような非常事態でもお母さんがすぐに子どものもとへ駆けつけられる体制をつくること。そのため自分の街を中心にはたらくことを大事にしている。

一方、人手不足に悩む中小企業の中には、週に数日、数時間ずつでもはたらいてくれる人を探しているところもある。ママインターンには、お母さんと企業を「マッチングさせる」という目的もあるのだ。

“家どっぷり”を変えたい

東京都国分寺市に住む石田美月さん(仮名、47) は2人の子どもを持つお母さん。独身時代は企業で人事関連の仕事をして、結婚後は専業主婦となった。

下の子どもが小学生になったのを機に「ぼちぼち仕事に戻ってもいいのかな」と思うようになったものの、ブランクの長さや自分のスキルが心配でもやもやとした状態に。そこで「“家どっぷり”の生活から切り替えたい。自分の考えをクリアにしたい」と2016年11月、ママインターンに参加した。

職場体験に行く前に開かれるキャリア講座

職場体験に行く前に開かれるキャリア講座

職場体験先はお母さんたちの希望を聞きながら、Arrow Arrowがアレンジして地元の中小企業や団体などとマッチングする。石田さんが選んだのは、市内の社会福祉法人Ann Bee。Ann Beeは知的障害のある人たちと日中は製品づくりや地域清掃に取り組み、生活の場であるグループホームも運営している。

石田さんは、知的障害のある人と接した経験は少ないものの、「子どもの状況に合わせたはたらき方を希望する人に来てほしい。初めは様子を見ながらでもよいので、細く、長く続けていってほしい」というAnn Beeからのメッセージに魅力を感じたという。

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Ann Beeは14年にもインターンの受け入れに協力していて、そのときにインターンをしたお母さんたちは今もはたらいている。生活介護の責任者を務める田中美智代さんは、「お母さんたちは子育てでたくさんの経験をしているので、私たちが逆に勉強させてもらうこともあります」とインターン生の受け入れに好意的だ。

「知的障害のある人たちには、いいところがいっぱいあるんです。そのことにママインターンで気づいてもらえたら、私たちもうれしいです」(田中さん)

はたらく喜びを思い出す

1日3時間、2日間の職場体験で、少しずつはたらく感覚を取り戻していった石田さん。限られた時間の中で「仕事に慣れた」とまでは言えず、戸惑うこともあったが「それでも何とかなったのは子育ての経験があったから。子育て前の私だったら知的障害のある方とどう接してよいのかまったくわからなかったと思います」と笑顔を見せた。

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「インターン前はいろいろな不安が自分の中を回って、それが膨らみ動けない状態だった」と石田さんは振り返る。履歴書・職務経歴書の書き方や面接の受け方から始まり「自分のスキルで何ができるのか」「日数や時間など条件にあう職場があるのか」「もし実際にはたらくことになったら、子どもの急病に対応してもらえるのか」「自分の体力は持つのか」など、言い出したらキリがないほど。

でもママインターンに参加するという一歩を踏み出し、職場体験もして気持ちには大きな変化があった。「ママインターンは、今まで“家どっぷり”で“母の世界”にいた私に、仕事でつながる人との出会いや、はたらく喜びを思い出させてくれました」(石田さん)。

地域の活性化にも

Ann Beeでの例のように、ママインターンがきっかけでその後も仕事を続ける人は多い。職場体験中の報酬はないけれど、しばらく仕事を離れていたお母さんにとっては“お試し就労”ができること自体がありがたいし、「自分も、受け入れ企業側も大丈夫そうだ」と確認してから仕事に就くことができるからだろう。一方で「もう少し子育てが落ち着いてからはたらきに出るほうがいいのかも」と気づく人もいる。

子育て中に身に付いたと思うスキルについて書き出してみる

子育て中に身に付いたと思うスキルについて書き出してみる

Arrow Arrow共同代表の海野千尋さんは「マルチタスクをこなしたり、言葉の通じない子どもの相手をしたり……。子育てを通して身に付けたスキルは、仕事だけでは得られなかったもの。自信を持ってほしい」と励ます。

地域に目を向けたママインターンは、はたらきたいお母さんと、地元企業、そして女性の社会進出を応援して地域全体の活性化につなげたい自治体の三者がハッピーになる取り組みでもあるのだ。

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